Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>アーガマ某重大事件

「すみません、僕の方から頼んでいたのに……」
「分かればいいさ。」アストナージは口の端を上げた。「そうだろ、お前等」
 四人がきょとん、とするのを見てとって、アストナージは言葉を継いだ。
「だからさ、分かっていれば良いってことだ。艦長には黙っといてやるよ」
「アストナージさん!」
 四人は顔を見合わせてホッと胸をなで下ろしたものだったが、トーレスが控えめに口を出した。
「――って言って、飲んで行くんでしょ?」
 アストナージはハハハっと笑って、答えた。
「当然だろーが。まだ残ってるんだろ?」
「えぇ、」サマーンがまだ口を付けていない瓶をアストナージに手渡した。「どうぞやってください」
 キースロンが空の瓶をまとめていくのを見ながら、アストナージは感心したように言った。
「それにしても凄い量だな。どうやって艦長の目を盗んだんだ?」
 トーレスとキースロンはニッと顔を見合わせた。
「あの人に盗むような目がありましたっけ?」
「ある訳ない!」
 その場に居合わせた面々はここぞとばかりに笑った。
 ――が、一人だけ言葉を失って立ち尽くす人物が居た。
「……盗めるような目がなくて悪かったな……」
 アーガマ艦長ブライト・ノア、その人であった。

『誰がイケズだ、誰が!』
 ブリッジに、ブライトのヒステリックな怒声が響いたのは、酔ったシーサーが冗談でサエグサに絡んだのを目撃したからであった。
『艦長!』
 慌てて姿勢を正しても、もう遅い。
『いくら中立サイドの港湾内だからと言っても、いやだからこそ、ふざけるにも程があるだろうが!』
『申し訳ありませんっ!』
『自分が軽率でありましたっ!』
 真剣に答える二人の顔が紅潮している所以は、恥だけではあるまい。
『――で、どのくらい飲んだんだ?』
 二人は少し驚きつつ、答えた。
『ほんの一口です。――業務に差し支えない程度に、と思いまして』
『当然だ。で、お前等だけではないな?』
 二人は顔を見合わせた。
『はい……まだ他にも』
『トーレスとキースロンの部屋でやっていて、サマーンやカミーユも居たんですが』
 ふゥン、とブライトは目を閉じた。判断は決まっていた。彼はインカムを取ると、医務室をコールした。
『ハサン先生? すまないが酔い覚ましを二人分ブリッジに持ってきてくれないか? できればあと四人分くらいも用意しておいて――えぇ、はい。では』
『艦長……』
 ブライトはインカムを置くと笑ってみせた。
『ま、「業務に差し支え」なかったのが幸いだったな。今後はまず先に酔い止めを飲んで置く方が良い』
『では、ペナルティはなしですか?』
 シーサーがつい声を弾ませる。
『今回は大目に見ておくか。こんな時くらい息抜きも必要ではあるしな。』
『ありがとうございます!』
 ブライトはブリッジに入ってきたハサンに『よろしく、』と声を掛けると、『後の奴等はどうしたものかな?』と思案顔で居住区へ向ったのだった。

 ブリッジの二人の態度が殊勝だったので、大目に見てやろうという風に良かったはずの気分が、ものの見事に害されて、こめかみが引きつるのが分かる。
「艦長!」
 異口同音の驚きが、いささか酒くさい室内にこだまする。
「……アストナージ、お前もか……」
「自分はっ、そのっ、」
 慌てるアストナージに、カミーユが助け舟を出した。
「アストナージ曹長は関係ありません。寧ろ僕たちに注意してくれたんですから」
 しかし、飲んだからには同じ穴のムジナである。
「首謀者は自分とキースロンです。後は引き込んだだけです」
 キースロンの頭を小突きながら、トーレスは一緒に頭を下げた。ブライトは室内を見渡した。
「さしずめ、ブリッジクルーの飲み会のようだな」
「僕は誘われたんです。」
 と、カミーユは先刻と同じことを言った。
「注意したものの、さすがに一杯やりたくなりましてね」
 と、アストナージは頭をかいた。そして、ニヤリと笑って口を開いた。


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