Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>遅れてきた誕生日

「仕事に決まってんでしょ。メール入れといたじゃない、」
「そういえばそうだっけ。」
 そんな返事に、ナナは脇からドクターを小突いた。
「もぅ、ちゃんと見といてよ」
「だって今日は殆ど一日こいつに振り回されたようなもんだからさ」
 ドクターが目線で示した先の人物がむっとする。
「振り回してなんかいないだろう? 会議だって言ってるのに、何度も研究室に連絡入れてたのはテオの方じゃないか。仕事にならないって、秘書が半泣きだったんだぞ」
「あー、それで苦笑いしてたんだー、あの子。」
 研究室の風景を思い出して、ナナも苦笑に付き合った。
(でも、泣かせたのは主任さんの方だと思うんだけどな)
 ナナが何故かしらそう思っていると、脇でテオが頭を下げた。
「そりゃ悪かった。謝る。でもここで逃げられたら、何時検診に来るか分からないからなカミーユは。」
「うわー、信用ないのね」
 テオとナナになじられてもそれには答えず、
「で、何で君がここに居るんだよ」
 そうカミーユに訊かれて、ナナは同じ台詞を繰り返した。

「だから仕事のついでよ、取材でね。あなたの研究室に寄ったら医療部だって言うから、途中ここを覗いたら居るんじゃないかって。はい、お土産」
 そう言って、ナナは紙の束を差し出した。
「あ、ありがとう……何これ?」
「あー、やっぱ読めないわよね。一応英字紙もあるんだけど……」
 広げてみせたそれは、日本語の新聞だった。英字紙の紙面によれば、日付はUC0069年11月11日となっている。

「僕の誕生日?」
「そうそう。月遅れで悪いんだけど、誕生日プレゼント兼ねてね。今回の収穫よー。一年戦争前のトーキョーの新聞なんて、あまり残ってないんだから。当然これはコピーだけどね」

 ナナはフリーのジャーナリストをしている。ここ1ヶ月ほど取材旅行であちこち飛び回っていて、その中で見つけたもののようだ。カミーユが一年戦争前にはニホンに住んでいたという話は聞いていたから、ついでに探してきてくれたらしい。

「それは……貴重なものだね、ありがとう。でもなぁ……」
「何よ?」
「実はこの日じゃないらしいんだ、僕の誕生日。」
 その物言いに、ナナもテオも目をぱちくりさせた。
「何よそれ?」
「何だか手違いがあったらしくてね。本当は11月5日なのに、データベースには11月11日で登録されたらしいんだ。尤も誕生日に誕生日らしいことってして貰った覚えが殆どないからさ、どちらでも良いんだけど」
「信じ込んでたわよ、ID見たって11月11日だし」

 市民IDのキーには、各人の誕生日が埋め込まれている。名前も顔もいくらでも変えられるご時世にあって、誕生日だって詐称は出来るがIDを作成する際には便利なものだ。勿論それだけではユニークなものにはなり得ないので、他の要素も含めて作成されるものではあるのだが。

「僕だってそう思っていたし、違うらしいって分かったのも随分後の話でね。その時にはもう親も居なくて、真相は分からないんだ。もう11日で良いって思ってるし、11日こそが誕生日だと思ってるから、これは本当にありがたく受け取っておくよ」
 そう言う彼の声音は、いつになく真摯な響きを伴っていた。


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