Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>Silent Bells

「何処へ行くのよ、」
「病院の方が、エレカは早いだろう」
 確かに、キャンパスの反対側にあたる付属病院前の乗り場の方が、場所柄レンタルエレカの回転は早い。しかし、看護学校に一番近い乗り場は校門を出てほんの少しだけ歩いた所だ。ファがそちらを振り向くと、看護学校の学生で行列が出来ている。尤もこのくらいの列なら少し待てば乗れるものだろうが、カミーユは一段と足を早めたようで、ファは小走りに彼に追い付いた。
「どうしていつもの所じゃないの?」
「別にどこだって構わないだろ。」
 こんな風に、一度こうと決めてしまったカミーユはてこでも動きはしない。そのことをファは良く知っているから、仕方なく彼と並んで冬枯れたキャンパスの庭を歩いていった。
「一体どうしたっていうのよ、」
「それはこっちが聞きたいよ」
 カミーユは前を向いたまま言い返した。ファは彼の横顔に答えを返す格好になった。
「遅れたのは悪かったわ。ちょっと友達に付き合ってたのよ、クリスマスのミサで歌うからってそのお手伝い。」
「ファのことを聞いてるんじゃないんだよ、」
 カミーユはちらりと視線だけをファに呉れて、そのまま歩いて行く。相手にならない、とばかりにファは大袈裟に溜め息をついた。
「じゃあ何だっていうのよ?」
 カミーユは突然立ち止まると、ファの顔を覗きこんだ。
「ねぇ。」
「何よ。」
 ファはそんな彼に一瞬戸惑いながらも応えてみせた。このくらいのことができないようでは、気紛れなカミーユとは付き合って行けるものではない。それでも自分をじっと見詰めるカミーユの青い瞳には、今でもどこかどきりとさせられてしまうファだった。しばらくの沈黙の後、彼はこんなことを言った。
「俺ってそんなに目立つ?」
「……どうかしら。」
 何を苛々しているのかと思えば、何を言い出すのだろう。質問の単純な答えも、その本来の意図も何も分からないまま、ファはそう答えるしかなかった。

 キャンパスの中庭の教会から、ワンピースの年配の女性が姿を見せた。ファは彼女を認めると、立ち止まって会釈をした。
「ごきげんよう、シスター。」
 シスターというからには、先程の鐘は彼女が鳴らしていたものだろうか。彼女もファを学生だと認めたらしく、会釈を返してくれた。
「ごきげんよう。良いクリスマスをね。ミサには是非いらしてね」
「私はクリスマスのお昼には伺おうと思ってます」
 そんな返答をするファに、シスターは微笑した。
「イヴは彼と一緒?」
「え? ……えぇ。」
 ちら、とカミーユを伺うファの頬が微かに赤いのは、空気が冷えているせいだけでもなさそうだ。シスターは微笑を浮かべたまま軽くうなづいた。
「それは良いわね。じゃ、ミサにも一緒にいらっしゃいな」
「出来れば。では、」
 自分達の来た方へ歩き去るシスターに改めて会釈をして、ファはカミーユの腕を取った。

「ミサって……さっき言ってた友達が歌うって、あれ?」
 一応カミーユもひとの話は聞いていたらしい。シスターの前ではだんまりを決め込んでいた彼だったが(それでも最後にはファと一緒にちゃんと会釈を返していたが)、ここへきて好奇心が首をもたげたらしかった。
「そぅ。イヴ――って今晩と、明日のお昼とあるんだけど、友達が歌うのはクリスマスのミサだから、それには行きたいなぁって思って。どう?」
 言ってみてカミーユの反応を伺うが、彼はどうも判断付きかねる様子だ。
「どうって言われても、俺はクリスチャンでもないしさ」
「私だってそうよ? 歌を聴きに行くと思えば良いのよ」
 あっさりと答えるファに、カミーユは軽い驚きを隠さずに声に出した。
「そういうものなのかい?」
「そういうものよ。」
 そうこうしているうちにキャンパスを抜けて、付属病院前のエレカ乗り場にまでやってきた。待ち時間も、こちらをみやる女学生の視線もなく、二人は無事にキャンパスを後にした。


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