Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>Silent Bells

「今までこういうことなかったの?」
「意識したことはなかったな、なんだかんだでこれまでずっと一緒だったけど。」
 そう答えるカミーユは、本当に今回のことが思いがけないものと思っているらしかった。
(このヒトが余程無自覚なのか、或は二人とも馴れ合ってしまっていてボケているって線かぁ……)
 駄目だこりゃ、と頭を抱えて、ナナの口からはこんな言葉が飛び出した。
「……それはどうも御馳走様。」
 そんなナナを、カミーユは何か釈然としない面持ちで見遣っていた。

「ありがとう、これで大体揃ったわ」
 カミーユとナナがそれぞれの理由で頭を抱えているカフェから数軒離れた店から、ファとテオが連れ立って出て来た。
「どういたしまして。いやね、僕等もクリスマスはホームパーティをするからって買い物に来てたんだけど、休み前にカミーユを誘ったら断られてね。」
 そんな話はカミーユから聞いていない。ファは目を丸くした。
「そうだったの?」
「『その日は先約があるんだ』って、どんな良いひとと過ごすのかなって下世話な興味はあったんだ。なるほどねって思ったよ」
 テオがにっこり笑っている。そんな彼を見ていられなくて、ファは抱えた荷物に目をやった。
「そうなんですか、」
「あ、これは女の子だなぁってすぐ分かったんだけど、ファみたいなチャーミングなひとだとはね。奴は果報者だな」
「ありがとう。ナナさんだって、可愛らしいじゃない」
 空いた手でぽりぽりと頬をかく、テオは言葉を探しているようだった。
「あれはまぁ……妹みたいなものだから。えぇとね、あいつがあぁもカミーユに絡むのは、あれで案外気に入ってるからなんだよ。」
「そうなんですか?」
 ファの声に滲むものを払うように、テオは手を振ってみせた。
「とは言ってみてもさ、はしかみたいなもんだろうから、気にしないでやっておいてね」
「はしか、ですか。」
 テオの使った慣用句はややもすると死語の世界だ。ファは検疫の単元に出ていたその伝染病の名前を思い出しながら、『気にしないで』というテオの微笑を信用することにした。

「……だから、結局は冬至祭なのよクリスマスなんて。割り切れば良いじゃない、」
「日本人がそういうものに寛容だってのは知ってるけどさ、わずか一週間でキリスト教の教会と仏教寺院と神道だっけ? その神社を回るのって何だか無節操って気もするけど」
「基本が八百万の神なんだもの。神仏習合ってのはね――」
 ナナがまたしてもカミーユに噛み付こうとしたところへ、テオとファが姿を見せた。
「なんだ、盛り上がってるじゃないか」
 テオが揶揄するように声を掛けるのに、カミーユはほっとしたように迎え入れた。
「あ、おかえり。」
「お待たせ。何の話?」

 ファとしては、自分が居ない間に『盛り上がってる』ような話題は気になるというものだ。まして、相手が同級生の女の子――しかもカミーユを気に入っているらしい――とくれば尚更だ。カミーユは、そのファの言外にある追求する視線よりも、寧ろ話題の内容に後ろめたさを感じながらぼそっと白状した。
「クリスチャンでもないのにミサに行くのはどうなんだろうって話。」
 さっきの続きじゃない? とファの目が問うている。と、テオが『なぁんだ、そんなことだったのか』と笑った。彼としては、黙っているか盛り上がっているかで盛り上がっている方に掛けたカミーユとナナの話題がそんなものだったと知って、面白がっているらしかった。テオはあっさりと簡単な答えを出した。
「構わないんじゃない? クリスマスは特別なお祭りなんだし。それにクリスマスは迷える子羊を迎え入れる良い機会でもあるのだしね」
「と、敬虔なクリスチャンは申しております。」
 ナナが茶々を入れる。
「そりゃ一部の宗派には排除的な教義もあるけど、そんなのは特殊ケースだと思って欲しいな。ジュリヤンもそうだけど、基本的に教会はリベラルだよ。洗礼を受けていなくても、ひとは等しく神の子であるってね。ま、そうでないと医学校なんてやってられないけどさ」
「と、学校法人の理事長の孫は申しております。」
 テオは、ナナの頭を小突く振りをした。
「茶化さないの。……良いじゃない、ちょっと変わったデートコースってことでさ?」
「そりゃぁまあそうだけど……」
 思わず顔を見合わせるカミーユとファを、にこにこしながらテオは眺めた。
「『二人で幸せにこの日を迎えられました』って、そのことだけを祈る時間があっても良いじゃない。僕なんかだと信仰を持たないひとは普段何に祈るんだろうって思ったりもするんだけど」


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