Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>Silent Bells

「あ・ありがと。」
 ふわっと首元に巻いてくれる、その様が妙にこそばゆい。鏡の中の自分が、居場所に躊躇しているのが見て取れる。

『あなたって目立つもの。』
 何故か、昨日のナナの言葉が耳元に蘇る。

(これで二人して歩いていたら、ますます目立つことになるんじゃ……)
 そんな感慨がふとかすめたのだが、ファが嬉しそうにこちらを見ているのに、カミーユは薄く笑って軽く首を振った。

「じゃあさ、これ」
「なぁに?」
 手のひらに収まってしまう布の包みを、カミーユはぽん、とファの手に持たせた。くしゃっと無造作に丸めたビロードから出てきたのは、小さ目のコイン大のトップのついたペンダント。縁の一部には白い光沢があり、他の地の部分は銅に似た地金を生かしたつくりになっていた。
「これ、地球照ね。」
 明け方の空に浮かんだ、幻のような月が脳裏に蘇る。
「まぁね。」
 手作りかしら?とファはペンダントを眺めてみた。こんなおあつらえ向きのものを探しだしてくれたというのであれば、それとても彼にとっては一大事であったろう。でもどこかのお店で見つけたのなら、もう少しちゃんとしたラッピングになるはずだから、やはり……。
「良いの? 貰って。」
 我ながら分かりきったことを聞く、とファは思う。でも、肝心のことをちゃんと言葉にしないカミーユが悪いのだ。彼はまた窓の外を見遣ったまま、振り向きもせずに答えた。
「俺が持ってても仕方ないだろう、」
「ありがとう。」
 ファには、その言葉で充分だった。


 カラン、といささか古めかしい鐘の音がミサへと人々を誘っていた。昨晩雪を降らせた街の空気は冷ややかさを保っていて、自然とひとの温もりが欲しくなる。ファは冬木立の中を歩きながら、カミーユの腕を抱く手に力を入れた。彼女の祈りの言葉はいつも同じ、ほんのささやかなものだ。それでもファは心の底から繰り返す――その小さな祈りが、彼の心にも響くようにと。

(9911.22)

Silent Bells wordbook




あとがき

 えぇと突然ですがカミーユ大学生編です。あまりにも自作設定が多いので用語集まとめてみました。またよろしければご覧になってみてください。

 元ネタの"Silent Bells"は、もう一昔前のシングルだったんですね〜。ほんと大好きな曲でして、98年の"Holy Acoustic Night"ツアーでは楠均さんとのデュエット(ほぼアカペラ)で聴けて良かったのでした。「他愛のない、でも愛さずにはいられない」遊佐未森的日常を意識して書きましたが、日常なかみ子さんってばほんとにふつーのひとなんですわ(笑) 二十歳過ぎればなんとやらを地で行っておりまする。でもほんとのところは只者じゃないのよ;)
 しかし……っ。極甘でんがな! そらーもぅ甘いぞドモン! といおうか、アップルパイにメイプルシロップを掛けたような甘さといおうか、通常の三倍の量の砂糖を入れたヨーカンといおうか……とにかく甘いです。ひぇぇ。←そんなもん書くなよ……。
 えとそれから、何故にカミーユは「目立つ」のか? それは「今までずっと(ファと)一緒だった」のに、今はそうではないから――です。逆説的ではあるんですが。お分かりになるでしょうか?

 この「大学生編」はそれこそ10年越しくらいになってるオリジナル設定でして、テオとナナは自作キャラです。が、こういうのもアリかな、みたいな感じでお読みいただけたものでしたら幸いです。


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