Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>同級生

 このミドルスクールが開校したのは十二年前、宇宙世紀0083年のこと。僕が二年生になった時だった。一年戦争の時点では建設中だったこのスペースコロニー(サイド7・1バンチ)が、一年戦争で受けた被害の改修も含めて完成し、グリーン・ノア1と改名して再出発したのだ。最新のコロニーということで、他のサイドからだけでなく地球からの移住者も多く、住宅地や学校の建設ラッシュが収まりかけた頃だった。僕の父が別の学校の教師としてグリーン・ノア1に赴任したので、家族で引っ越してきた訳だ。

 開校したての学校なんてないない尽くしで、校舎の増築工事を眺めながら授業を聞いているというのが日常茶飯事だった。そんな時期も過ぎ、ようやく学校として格好がついてきた宇宙世紀0084年、三年生の新学期のことだった。
 この学校では、生徒は全員何らかの委員だか係だかを務めることになっていた。僕は二年生の時と同じく図書委員に立候補したのだが、同じタイミングで手を挙げた奴がいた。

「ルイスとカミーユか。丁度二人だからこれで良いな」
 この時の担任は良く言えば柔軟、悪く言えば大雑把という感じの人だった。図書委員の二人枠がぴたりと埋まったのを良いことに、誰が委員になるのかという適性など考えずに、次の委員を決めるようクラスの委員長を促した。僕は、やや後ろの方に座っていたもう一人の図書委員の顔をちらりと覗き見た。

 彼の名はカミーユ・ビダンといった。確か二年の春学期に地球から転校してきた生徒で、妙に目立つのだか浮いているのだかよく分からない奴だった。昨年はクラスが違ったし、今年は始まったばかりで彼の素性は……その、あまりよろしくない方面ばかりが耳についていた。曰く、先生のお気に入りだの(まぁ優等生の部類には入ってる)、彼の少女じみた容貌なり名前なりをネタにちょっとからかうとすぐ殴り付けてくるだの(コンプレックスを感じているらしい彼には悪いが、下手をすると女の子より可愛かったりするのも事実だ)、だのに妙に要領が良いのか大体とばっちりをくらうのは彼をからかった方だの(そりゃ当然だ)、だからか何処かお高くとまって周囲を馬鹿にしてるだの(そうなのかなぁ?)、そりゃ奴は地球育ちだからだの、それより奴の親はさぁ、だの(それは彼の責任じゃないだろ?)、などなど。しかしこれらの評判の半分以上は、彼に対するやっかみや嫉妬から来るものだということくらいは知っていた。あとの半分は、まぁ彼の自業自得というものなのだろう。いくら腕に覚えがあるからって、すぐ殴るのはガキみたいだよな。

 彼は僕の視線に気付いたようだった。僕は『よろしく』と言うつもりで笑ってみせたのだが、彼はツイ、と視線を逸らしてしまった。何なんだ? 奴は。あんな奴と一緒に図書委員をしなくちゃならないだなんて幸先が悪い、とこの時思ったものだった。

 その週の木曜日、初めての図書委員会があった。当日カミーユにその旨を告げると、彼は眉根を寄せて何か面倒そうな顔をした。

「今日は用事があるんだよ、」
「今日が委員会だっていうのは、月曜日に言っておいただろ?」
「悪いけど、出ておいてくれよ」
 詰問した僕にそう言い捨てて、彼は去って行ってしまった。あいつ本当にやる気あるのか? とてもそうは思えない。だから人選は適材適所に置いて欲しいのに、あの担任ときたら。僕は頭の中にカミーユと担任への文句を並べ立てつつ、図書室へ向かった。

 その日の委員会では、役員と当番が決まった。何だかんだで僕が委員長、彼は役職はないものの当番は僕と同じ日になった。というか、同じクラスだから基本的には同じ日なので、そのままそうしておいたのだ。僕は図書委員の仕事は分かっているし、苦にならないから毎日来ていたって良い。でも彼はどうせろくに仕事をしないだろうから、僕が二人分働けば良いのだ。他の委員と組ませて揉め事になるくらいなら、図書委員長兼同じクラスの僕が責任を取れば良いんだ。僕って苦労性なのかなぁ。

 ところが、彼は存外真面目に図書委員の仕事をしてくれた。かと思うと、委員会には殆ど顔を出さないし、当番も希にふらっとサボったりするから、やはりと言った方が良いのだろうか。しかし当初の懸念ほどには仕事をしないようでもなかったし、それなりにこなしてくれるのは有り難いとも思う。それでも相変わらず、彼のことはよく分からない。実際彼は目立つ生徒ではあったけれど、クラスメイトだという気はあまりしなかった。同じクラスとはいえ、始終同じ授業を受けている訳ではないし、どこか別の世界に生きているような感じさえ覚える。だから、同じ日に当番をしている図書室が、彼とは同級生なのだと思える一番の場所だった。


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