「そうだってば」
「だってお前クラスメイトだろ?」
「そうだよ」
「その上委員会も一緒だろ?」
「そうだよ、でも知らないものは知らない。」
「そうなのか、」
グレアムもやっと僕の言い分を受け入れてくれたようだ。ぽつんとつぶやかれた言葉には、諦らめた感があった。何故か僕は彼をからかってやりたいような、慰めてやりたいような不思議な感覚に捕らわれた。
「でもね、見た感じ女遊びする風じゃないから安心しろよ」
「そうなのか?」
さすがにグレアムの言葉も懐疑的だ、僕だってあぁ言ってはみたものの実は少々自信がない。
「さっきの彼女もね、たまたま貸し出し記録に興味を引かれたってのが真相じゃない?」
カード見ないとグレアムすら分からなかったかも知れないような奴なんだぜ? と言外に含ませると、当のグレアムも顎に手をやって微かに考えたようだった。
「そうなのか。」
「そうだよ、ほら元気だせよっ」
あーぁ、何やってんだろ、僕は。
首を傾げつつ、とぼとぼと去ってゆくグレアムを放っておいて、僕はポスターを張り替えた。図書室に戻るとファが手近な雑誌をめくりつつも、ちらちらとカウンターの方を気にしているのが見て取れた。僕はカウンターに入ると、カミーユの耳元でこそっと言ってやった。
「あとは僕がやるから今日はもう良いよ、」
「そうかい?」
カミーユは振り向きざま目をしばたいて、ふとカウンターの向こうへ視線を向けると、改めて僕に戻した。
「ありがとう、そうさせて貰うよ」
微かに細められた目は、ちょっと見たことのない表情だった。こんな柔らかい顔も出来るんだなぁと僕は感心した。カミーユはやりかけの手続きを終えると、僕にカウンターの席を明け渡し、鞄を抱えるとファと連れ立って出ていってしまった。色男も大変だなぁとため息をついてカウンターの列に視線を戻すと、出口の方をぽかんと見遣っている栗色の髪の少女の横顔がそこにあった。僕は、頭が痛くなってきた。
「ルイス君、ちょっと」
その翌日、僕に声を掛けたのは図書委員会副委員長のイシャーラだった。肩にかかる長さの亜麻色の髪がとびきり綺麗な少女で、こちらは『ミス三年一組』である。性格は案外サバサバしているのだが、それがまた良い。今でも有能な副委員長だが、将来は凄腕になるのじゃないかという前評判はやたらと高かった。
「どうしたのさ?」
「昨日、図書室で何かなかった?」
「あったといえばあったけど、何?」
イシャーラは周囲をはばかるように、廊下の窓際に僕を誘うと、声を細めた。
「ん……ちょっとね、うちの妹が泣いちゃってたのよ。図書室の本抱いたまま」
「妹さんが?」
こくり、とうなづくイシャーラの若草色の瞳を見ていたら、走り去った少女のことを思い出した。そうだ、髪だって同じ色だったじゃないか。尤もイシャーラはストレート、あの子は巻き毛だったから印象が違ったんだよなぁ。僕は少々自己嫌悪に陥りながら、それは表に出さないようにしてイシャーラに尋ねた。
「あー、あの子かなぁ? 何て名前だっけ」
「ターシャよ、一年三組。」
「あ、そだ。そんな名前だったっけ。」
カミーユのことをどうこう言えた義理ではないが、確かカードにはそうあったはずだ。イシャーラは普段のぴしゃりとした物言いでなく、心配そうな響きを持たせた言葉を継いだ。
「何があったのよ、」
「いや、別に……」
僕は手短に昨日の経緯を話した。話が終わると、彼女は『はぁ、』と大袈裟にため息をついた。
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