Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>同級生

「どうせそんなことだろうと思ってたわ」
「分かってたの?」
「あの子に頼まれてね、カミーユの借り出し記録見せてやったことあったのよ」
「そりゃまずいよ。」
 借り出し記録は個人情報だぞ、おい。
「そしたらそれを追っかけて読みはじめたのね、なーんか少女マンガを地で行く展開じゃない」
 イシャーラは呆れきった風に言った。二歳違うと女の子ってこうも違うのか? 何だか空恐ろしい感じがして、僕は心持ち背筋が寒くなった。
「そうかも知れないけど、可愛いじゃないか」
 僕はターシャの肩を持つようなことを言った。だって僕は本当にそう思ったのだ。うんうんとうなづく僕に、イシャーラは不思議なため息をついてみせてこんな事を言った。
「ルイス君みたいな子に惚れてくれたんだったら、姉は苦労をしないのにね」
「ちょっとそれ、どういう意味だよ」

 帰宅すると、母がテレビのローカルニュースを付けっぱなしにして夕食の支度をしていた。別に見ているでもないのに、いつもこうなんだよなぁと思いながら画面に目をやると、思いがけないものが映っていた。あの女顔はカミーユ以外の何者でもない。

「あれ? 何であいつがこんなとこに?」
「どうしたのルイス?」
 母がキッチンから声を掛けてきた。
「いや、知ってる顔がニュースに出てる。」
「ふぅん……お友達?」
「うん、同級生。」
 僕の応えに興味を示したのか、母は手を休めてテレビを見やった。
「あら、可愛い子じゃない」
「そうかなぁ」
 母の言葉にとりあえず僕はそう応えた。まったく、女ときたらどいつもこいつもあぁいう手合が好みなのか? ともあれ、実は『それは母さんがアイツのことを知らないからだよ』とも言いたくなったのだが、何故かそう言い切ることはできなかった。母とは確かに家族だけど、同じ男として、同級生として、奴の事をあまり悪く言うのははばかられたという感覚だ。だから母が、
「悪い子には見えないわよ」
 と言ったのに、僕は、
「イイ奴だよ。同じ図書委員だしね」
 と応えてしまったのだ。母は僕にそういう友人がいるらしいということで、何故か機嫌が良くなったようだ。件のニュース自体は先に行われていたホモアビス大会の表彰パーティで、カミーユは何でも経験が一年以内だというのにも関らず見事三位入賞したとのことである。パーティが開催されたのは昨日――奴がファを誘ったというのはこれだったんだ、とようやく僕は合点した。

 ニュースでは上位三名の飛翔の映像も流されたのだが、彼が三位だというのはおかしいようにも思えた。ハンググライダーにパーソナルジェットを組み合わせた感じの、このホモアビスというスポーツに関して、僕はまるで門外漢だ。だが、いやだからこそではあるのだけれど、上位二名のどこに彼が劣ったものか分からないのだ。彼が一位でも全然おかしくない、寧ろ経験が一番ないのにあれだけ飛べるのだったら、経験を積んだらどうなるんだ? と思うと空恐ろしい。

 ぼーっと映像を眺めてしまっていると、脇で見ていた母が『ルイスもカミーユ君に教えてもらったら?』などと恐ろしいことを言い出したので、僕は明日の予習をするからと自室に逃げ込んだ。
 しかし実際、言葉にしてみると確かにカミーユはイイ奴なんだろうとも思う。ただ、彼がその手先とは裏腹に人付き合いに不器用だから、周りが理解しきれないだけなのだろうとも思うのだ。勿論、僕も彼のことを分かっているとは思えないけれど。

 翌日、珍しく校門に入った処でカミーユを見つけた僕は、『おはよっ』と声を掛けながら背中を叩いてやった。こんなことが出来たのも、まだ人気のない学校だったのが幸いしたのだろう。何せ昨日の今日だ、やっぱり、だからこそこいつもこんな時間に出てきたんだろうなと僕は思った。ファとも一緒じゃないしさ、野次馬って嫌いそうだもんなぁって誰でもそうだろうけど、カミーユの場合は特別だ。多分。


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