Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>同級生

「何だ君か。おはよう」
「凄いんだな、ニュースで見たよ」
 カミーユは視線で空を仰ぐようにして、やや間を置いて応えた。
「あぁ、あれね。」
「噂には聞いていたけどさ、何でも出来ちゃうんだなお前って」
「そんなことはないよ」
 相変わらず素っ気無い物言いの横顔だ。僕は奴の脇腹を、うりっ、と小突いてやった。
「もっと自慢したっていいんじゃないか?」
「よせよ、」
 カミーユは僕の腕を軽く払うようにした。でもそれはあしらわれているというよりは、本当に照れているような風に見えた。鼻の頭をこすっている奴を見遣りながら、こいつも照れることがあるんだなぁと、僕はちょっと意外にさえ思った。大体からして自信家で、でもそれすら中々表には出さないような奴なのだ。それくらいのことは、最近ようやく分かってきた。でも、だからか? 案外照れるというのはあるのかも知れないな、うん。
「ふぅん……まぁいいけど。今日くらい委員会出ろよな」
「ごめん、今日は用事があって」
 おいおいまたかよ。さすがに僕もかちんと来て、詰問してしまった。
「今日は何の用事だよ。」
「そんなの、君には関係無いだろう?」
 あーもうこれだよこれ。感情を滲ませないような抑揚のない物言い。でもだからこそこいつはかなり機嫌が悪いんだな、とかえって分かったりもする。とはいえ、僕としてもそろそろ見逃す訳にも行かなくなっているんだ、許せよ。

「大有りだよ、同じクラスの図書委員長としてはね、こう休まれると庇いきれないぞ」
「そりゃ悪かったね」
 さすがに悪気は感じてはいるらしい。ぽつり、とそんな風に呟かれてしまうと、僕もあまり責めだてする気はなくなってしまう。だから、その沈んだ目の色をなんとかしてくれぇ。
「事情があるんだろう? 悪いようにはしないからさ、僕にだけは聴かせといてくれないか?」
 なっ、とウィンクしてみせると、カミーユはきょとんと僕の顔を覗き込んだ。そして、声をひそめてこう答えてくれた。
「木曜日ってさ、ダックスの親父のとこに行くには良い日なんだよ」
「前にシドニーが言ってたな、誰なんだ?」
 あの騒ぎをよく覚えていたから口に出来た言葉に、彼は警戒を解いてくれたのか、話を続けてくれた。
「ジャンク屋の親父なんだけど、目が利く人なんだ。仕入れとか色々あってね、木曜日が一番話がしやすいんだよ」
 その口振りからは、彼が本当にその人を当てにしているのが分かった。ということは余程出来る人なのだろう。ただ悲しいかな、僕にとっては異郷とも思える世界の住人だ。
「ジャンク屋ねぇ……ホモアビスとかで使うの?」
「使わなくはないけど、寧ろ別の用事でね」
 あんなややこしそうなこと以外の用事? それは僕の想像力を超えている。
「何かまだやってんのか?」
「まぁ……色々とね」

 僕を少し見上げる感じの目が面白そうにきらめく。秘密を隠しているけど本当は打ち明けたい子供の目と同じだ、って僕達もまだまだ子供か。
「えっと何だっけ、α……7がどうとかって」
 シドニーがダックスの親父とかいう人のとこでどーたら、というのはそういう名前だったはずだ。
「あれもまた別なんだけどね」
 カミーユはやっぱり僕を微かにからかうような口調で応えた。さらに別……僕は軽いめまいを覚えた。

「何に使うんだ?」
「無線機用のブースターなのさ。ミノフスキー粒子の散布状況はここじゃしょっちゅう変わるから、旧式のα6じゃそろそろ使い物にならないんだよ」
「何でわざわざ無線なんか使うんだぁ?」
 ミノフスキー粒子の電波干渉作用のおかげで、通常の通信網は有線が原則だ。だから僕の反応はごく自然のものだと自分でも思うのだけれど、どうも彼にはお気に召さなかったらしい。
「いいだろ別に、」
「ん、分かった分かった、悪かった!」
 僕は機嫌を損ねかけた彼を必死になだめようとしたのだけれど、丁度彼の行きたい教室と、僕の行きたい図書室との分かれ道に差し掛かってしまって、そのまま彼は行ってしまった。珍しく饒舌だったなぁという感想を持ちながら、僕は彼の背中を見送った。


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