Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>First Contact

 シャワーの一件で多少気が紛れると、勢いリラックスしてしまう。とはいえ、特にすることもなく、ぼんやりと白い壁を見つめていると、忘れていた空腹感が襲ってきた。泣きはらした直後だというのに、自分の胃袋の無神経さには腹が減る……もとい、腹が立つ。
 時計を見るまでもなく、もう随分食べていないのは分かりきっている。一応の面倒は見てもらえるらしいから、食堂に行けば何か食べさせてくれるとは思うのだけれど……何処にあるか分かるだろうか?
 インカムでレコアを呼び出しても構わないとは言われていたが、『食堂って何処ですか?』なんて訊くのも何となく嫌だ。
「ま、いいさ。自分で探せば……」
 言うや否や、部屋には白い色彩だけが残された。

 軍艦の構造はよく知っているつもりだったので、そんなに迷うことはないだろう、とカミーユは楽観的だった。――或いは、散々迷ったとしても、一人で見つけられればそれでよいとも。
 そんな少年の希望は、とある人物の出現によって、すぐに打ち砕かれてしまった。
「あ……クワトロ大尉、」
 解析室から出てきたらしい彼と鉢合わせてしまったのである。
「どうした、カミーユ君」
 クワトロの柔らかなものの言い方に、カミーユは思わず本音をポロっとこぼしそうになったものの、少年は意地を張った。
「別に、どうもしてません。」
 そんな言い方をするカミーユに、クワトロは尋ねた。
「もう良いのか?」
 それだけの問いに、
「……はい」
 それだけで答える。
 クワトロは、『ならば、良い』とでも言うように黙って頷くと身を翻したが、振り向きざまカミーユにこんなことを言った。
「食堂なら、そこを左に曲がってすぐの所だ。」
 カミーユに何も言い返す間も与えず、クワトロは視界から消えた。後には呆然と立ち尽くすカミーユ一人、である。
『よりによって……何であの人に言われなきゃならないんだ?』
 かぁっ、と頬が火照ってくるのが分かる。
 クワトロが去った方を見遣りながら、ただただその言葉ばかり繰り返していた。

「何ぼーっと突っ立ってんだよ、」
 カミーユの陥った不毛なループを打ち切ってくれたのは、長身でブロンドの人懐っこそうな青年であった。
「あ……」
 見ず知らずのカミーユに気軽に声を掛けてくれたのは、彼にしてみれば親切のつもりなのだろうが、今のカミーユには有難迷惑なだけだった。不必要なまでにうろたえてしまいそうで、余計に顔が赤らんでしまうばかりなのだ。そんなカミーユの心中を知ってか知らずにか、青年は明るい顔で続ける。
「お前だろ? グリーン・オアシスから来た奴って。――カミーユ、だったよな」
「……そうですけど」
 とりあえずそう答えるしかないカミーユに、青年は頷きつつ、 「メシ、食いに行くんだろ? 来いよ」
 それだけ言うとさっさと一人で行ってしまうので、カミーユは再び後ろ姿を見送りかけたが、慌てて青年を追いかけた。
「待って!」
「へ?」
 振り向いてきょとんとするその顔は、まるで邪気がない。
「だから……まだ名前も聞いていないのに、」
 思い付きで続けた言葉に、カミーユはひとり頷いた。そうさ、何だか皆でさっさと決めちゃってさ……
「悪かったな。俺はトーレス。ブリッジで甲板指揮とか通信とか……何でもやってる。よろしくな。」
 そう言って、トーレスは笑顔でさっと手を差し出した。握り返さない訳にもいかないし、拒む理由も見当たらないし、カミーユもトーレスに微笑で返した。
「こちらこそ、よろしく。」


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