Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>First Contact

 トレイを持って空席を探していると、赤毛の青年がトーレスを手招きしている。
「キースロンだ。やっぱりブリッジに居る奴でね……何だよ」
 トーレスはキースロンの居る方へ向きを変えた。カミーユもついていく。
「いやさ、俺達もう戻るからさ、ここ座れって。……あぁ、君か、カミーユってのは?」
「そうですけど。」
「ブリッジ・クルーのキースロンだ。で、こっちはシーサー。」
 キースロンは向かいに座っていた青年を紹介した。カミーユはトレイを持ったままなので握手する訳にもいかず、軽く会釈しただけで、キースロンとシーサーは席を立った。
「またさ、何かあったら来てくれよ。――こいつら、弱くてかなわない」
「何が?」
 きょとんとして問うカミーユの声に、トーレスとシーサーの声まで合わさる。
「だから……カードだよ。」
 ヘン、とキースロンは軽く鼻で笑った。そこへトーレスがかみついた。
「こいつはーっ! たまたまポーカーで大勝したからってーっ!」
「まぁ、待てよトーレス」
 シーサーがやっとのことで二人を押さえて、
「いやはや……みっともないとこ見せちまったな。クルーは皆良い奴ばかりだから。そいつは俺が保証する。」
「分かります。」
 それは、分かるのだ。艦内の空気で、それは、分かる。
「じゃあな。また、」
 二人が行ってしまい、トーレスとほっと一息つく。顔を上げるとお互い目が合って、つい笑ってしまう。
「さ、食っちまおう。冷めたら食えねーぞ!」

 カミーユとトーレスが食べ終わる頃には食堂も空いてきて、ぬるくなったコーヒーを飲みながら、話を続けたりもする。
「じゃぁ、トーレスと、さっきのキースロンが最年少?」
「18でね……。活動してる中には俺達より下も居るには居るみたいだけど、アーガマに乗れた中では、ね。……カミーユ、お前いくつだ?」
「当ててみたら?」
「うーん……」トーレスは真剣に考え込んだ。「16と18の間を取って17ってとこか?」
 正解を言い当てたトーレスに、カミーユは微かに目を丸くした。
「まぁね。でもその『16と18の間』って何だよ?」
「15・6に見えるんだけど、にしちゃ態度がでかい。でも俺より上には見えないってこと。」
 そのあけすけなものの言い方に、カミーユは降参した。
「お見事。……でも一つしか違わないなんてね。」
 口調が抑え気味になったカミーユに、トーレスは尋ねた。
「どういうことだ?」
「だからさ……」コーヒーを飲み干してカミーユは続けた。「君は君なりにちゃんと生きてるのに、僕は子供でしかなくってさ……そういうこと。」
「なんだ、そんなことかよ。」トーレスは自分のカップを置いた。わずかな沈黙の間にカミーユはカッとなり、声を荒げた。
「そんなことって……こっちの気も知らないで!」
 少なくなっていた食堂中の目がこちらを向く。
 テーブルに両手をついてしばし向き合った二人だったが、トーレスがカミーユの方を押さえて座らせた。そのまま顔を近づけてささやく。
「だから……そうムキになるなって」そして自分は中腰のまま、ぺこりと頭を下げて座る。カミーユもバツが悪そうに、一緒に頭を下げておいた。

「いいか、よく聴けよカミーユ、」
 トーレスは声のトーンを落とすと話を続けた。
「ムキになるから子供だと言われるんだ。――尤も」少し、頭を掻いて、「その点じゃ俺もまだまだその気はあるみたいだけどな」
「だったら何で……」
「だから聴けって。誰が、いつ、何をしようと、そりゃ一人一人違うんだ。たかが年が一つ違うからってどうこう言うのは、お前ちょっと神経質すぎるぞ?」
「こればっかりは仕方ないな。」
 ため息の向こうに、素直な少年の顔が見えた。
「なんだ、分かってんじゃん。」
 トーレスが軽くそんなことを言いながらニカっと笑うものだから、カミーユは、つい彼をキッと睨んでしまう。慌ててトーレスは手を振って、
「おいおい、からかってるつもりはないんだって。それに……自分が子供だって分かってるなら、どうしたら良いのかも分かってるんだろ?」
「さぁ、どうだか。」カミーユは顎を軽く右の手に預けた。「何しろ考えてる余裕もなくってね……」
 落ち着いてきたらしいカミーユに、トーレスは改めて笑顔を見せた。
「ゆっくり考えれば良いさ。どの道――どっかの港に寄るまでは、脱走でもしない限り、お前、この艦から降りられないんだし。」
「それも、そうなんだけど。」
 降りられないのは確かだが、この艦になじみはじめている自分もここに居る。俺は、どうするつもりなんだ……? 何度目かの自問を繰り返し、ふと顔を上げるとトーレスが居ない。


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