その差し伸べられた手を視界に入れたカミーユを、既視感が襲った。差し伸べられた手は、母さんの手……そして、たった独りで宇宙を漂っていた俺を、引き寄せてくれた、君の手――。自分の手を重ねて、今度は彼女を自分で引き寄せる。
「引き寄せてくれたよね。俺を、君の方へ。あの時俺は独りだったけど……」
「独りなんかじゃないわよ、あなたは、独りじゃない。」
ファは彼の言葉を返してみせただけだった。しかし、その言葉はカミーユにとっては忘れてはならないものだった。
『寂しがることはなくてよ……』
裡で、懐かしい声がこだました。そうだ、俺は独りじゃない。裡に居てくれる人が居る、あたたかく包んでくれる人が居る。そして、そばに居てくれる君が居る。いや、君が居てくれたから――
「やっと、手が届いたね、ファ」
二人の背で、波が砕けた。
「カミーユ……!」
ファの顔がぱっと輝いた。
「やっと嬉しそうな顔をしてくれたね」
そんな口をきくカミーユも、笑顔としか言えない表情を浮かべている。
「だって、だってみんなカミーユのせいなんだからね!」
赤らめた頬を冷まそうとするかのように、ファの瞳からは無数の滴がこぼれ落ちていた。またしてもカミーユの胸元に顔を埋めたファの髪を、カミーユはそっと撫でつけた。まさかとは思った光景を眼前にして、その場に居た全員が二人の元に駆け寄った。何と声を掛けたものか、具体的な言葉は中々出てこない。ジュドーが口を開きかけたが、カミーユが微かに鼻をこすってみせるのにきょとんとして、『分かったよ』といわんばかりに微かに目で応えてみせた。プルはジュドーに抱かれたまま少々怪訝そうに二人を見比べた。ジュドーはそんなプルに『まぁ、見てなよ』と言ってやり、ファが少し落ち着いて顔を上げたとき、カミーユが今までとは違う様相の笑みを浮かべた。
「……あれ? これが嬉し涙かな?」
珍しくおどけた口調で、カミーユは指先でファの涙を拭ってみせた。からかわれていると知ったファは、いきおい怒鳴りつけた。
「違うわよ! 波が砕けたの!」
相変わらずファの頬は赤いのだけれど、これは半分怒り混じりだ。そんなファを意に介さず――いや、きっとこれも計算の内なのだろう――カミーユは、しれっと答えた。
「素直じゃないんだからな、」
「カミーユに言われる筋合いはないわよ、バカぁっ!」
ファはいよいよ本気らしいが、そんな彼女を見ているとついカミーユの面差しは柔らかくなってしまう。のに、口は裏腹な言葉を紡いでしまうのだ。
「……ったく、泣いてなければ怒鳴るんだもんな、ファは」
「どっちがまったくよ!」
しばらくカミーユとファは睨みあう格好になったのだが、どちらからともなく二人は笑いだした。本物の、嬉し涙を添えて。
もうそれから後は、それまで見ていた皆が二人を小突いたりもみくちゃにしたりと、危うい足場だというのに大変な騒ぎになった。プルのこともあるのでいい加減アーガマへ戻ろうとした折りに、プルがジュドーに尋ねた。
「ねぇ、なんであの時、カミーユってファをからかったりしたの?」
「そりゃぁさ、やっぱ照れくさかったんだろ?」
そう答えるジュドーの前に、シンタとクムが飛び出してきた。二人はじーっとジュドーを凝視して、シンタが口を開いた。
「違うよ。」
「じゃあ何だよ?」
クムは、知った顔でこう言った。
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