Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>Kyrie

「そろそろ行くよ。テオも、空いてるのは1コマだけなんだろ?」
 荷物を手にベンチを立って、カミーユが言った。自分も荷物をまとめながら、テオは答えた。
「そうでした。──ほんと助かったよ、ありがとう。悪かったね、付きあわせて」
「いや、」
 微かに首を振る、カミーユの口元は穏やかだった。
「医学部も大変だろうけどさ、バイオリンも、頑張れよ」
「折角直して貰ったしね、頑張ってみるさ。──聴きに来る?」
 付け加えられたその問いに、カミーユは静かに視線を外した。
「ちょっと、考えてみるよ」
「そう。じゃ、またな。ファによろしく」
「あぁ、また」
 医学部へと戻る道でテオはふと振り返ったが、風にかき消されたかのように、カミーユの姿は見えなくなっていた。


 春の光に照らされた教会から、重くも美しい旋律が流れ始めた。
『主よ、憐れみ給え』
 歌声に足を止めて見上げた先には、この街の天井が視界を塞いでいたが、その先に広がる宇宙は、一年前と変わらず穏やかな星々を湛えて、人の生きる世界を包んでいた。
 そしてその光は、今しばらくこの世界を照らすものであろうとは分かっていた。
「憐れみ給え、か」
 木の芽の匂いを乗せた風に吹かれるまま、人影は歌声に背を向けて歩き始めた。


(0304.30)



あとがき

 書きたい、と思ったのはかなり前のこと。「アインシュタイン・ロマン」(篠原敬介)に収録されていたサントラの「キリエ」という言葉の不思議な語感と、曲に込められた祈りに惹かれてのことでした。
 その後「226」(千住明)で再会し、「レクイエム」(モーツァルト)に辿り付いた頃には、9.11によって世界が様変わりしていました。
 書かなきゃいけない。そう思いは変わり、アフガニスタンとイラクを経て、ようやくこういう形になりました。書いてみると「Silent Bells」から進歩してないなーとか思うんですが(^^; 困ったときのオリキャラ頼みでテオ君再登場ですが、「一年前」に何があったのか色々思わせぶりで申し訳なく。いや世界に何があったのかは明らかなんですが(^x^; 色々このあたりご質問いただいたんですが、ご想像にお任せしますってことでひとつ。しかしカミーユとファが完全にすれ違ってるというのはどうなのよ自分。

 しかし、お説教とか調べてると求道者になった気分。いっそ近所の教会の門を叩いてみようかとか、アエラムックを買っておけばよかったかもとか。それでもやはり、どうしても腑に落ちないところが……かといって、思い上がれるほどの強さもなく。難しいものです。

 それでも、全てのものの上には同じ空があり、同じ月があり、同じ太陽があり。
 ただそれだけのことに、同じ幸いを見出したいとは思うのです。

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