Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>魔法使いと王子様

「コロニーレーザぁ?」医務室に入ってきながら、エルがすっとんきょうな声を上げた。耳が聡い……
「エル、」アンナが口元へ人差し指を持っていく。
「ごめんなさい……ホラ、プル」
 そう言ってエルは一冊の本を差し出した。ちら、と赤いリボンが見える。
「イーノがさ、医務室へ行くならプルに渡しといて、って」
「何だ? それ」ジュドーが覗き込む。
「さっき……病院の待合室で読んでた本だわ」
「イーノもそんなこと言ってたわ」
「――で、イーノは?」
「ビーチャ達とMSデッキよ。メンテしてるわ」
「俺も行かなきゃまずいな……」ジュドーは腰を上げた。
「ジュドーはいいの! プルのそばに居てあげて。」
「すまない、エル」
 そっか……きっとイーノ達はマーク2を見てくれているんだわ。
「ねぇねぇアンナさん。コロニーレーザーって?」とエル。
「ん……」答えにくそうに、アンナはため息をついた。
 このため息……冷たい! よほど大事だったんだわ……

「なぁプル、その本……どんな話なんだ?」
 ジュドーも……話をそらそうとして。
「王子様がね、森の魔法使いと一緒に、黒い魔法使いにとらわれたお姫様を助けにくるって話よ」
「よくある話か、」ジュドーのため息、リィナの匂い。
「そうね。でもプルくらいの女の子なら、誰だってそういう本を読むものよ」とアンナ。
「私だって……読んだわよ。」とエル。
「エルがお姫様ぁ? やっだぁ……」
 あれ? そうすると『エルの王子様』は……?
「昔の話よ。もうプルみたいに『お姫様気分』の年じゃあないもんね。」
 エル、ウソついてる。まだエルは、王子様を待ってる――

「にぎやかね。エル、そろそろ時間よ」
 ルーが医務室に顔を見せた。
「分かってるわよ。じゃね、お姫様」
「どーしちゃったの、エルは」ルーがクーラーボックスを置きながら言った。
「ちょっと話をしててね……何それ」
「前にジュドーが言ってたでしょ、プルの好きなものよ」
 ルーがクーラーボックスを開けて中から出てきたものは……
「チョコレート・パフェ! ルー、ありがとぉっ!」
 うわぁ……すごい、おいしそぉ……
「ね、ジュドー」私はスプーンを差し出した。
「え?」
「食べるっ」
 覚えてる? ジュドー……
 にこっとして、ジュドーはスプーンを持った。
「よしよし。ほれ、あーん」
「あーん……おいしーぃっ。ルーって天才!」
「どういたしまして。クムとシンタにも言っときなさいよ、手伝ってくれたんだから。それよりジュドー、どうしちゃったのよ?」
「いやね、アクシズのパーラーでさ」
「?」
「ジュドーがね、こうやってパフェ食べさせてくれたの」
「なんだか思い出しちゃってさ……な、プル」
「うんっ」
 やっぱり覚えててくれたんだ……
「どうしたんだ? プル」心配げに、ジュドーが覗き込んだ。
「ぅ、うん。うれしいの、私。みんながね、こんなにいろいろしてくれるって……」

 ジュドーは初めて(まともに)会った時のことを覚えてくれていた。イーノはあの本をくれたし(きっと買い出しの時買ってきてくれたんだろう。本屋の係はイーノだったから)、エルは……大切なリボンでしおりを作ってくれた。ルーとシンタとクムはパフェを作ってくれたし、他のみんなは私が壊しちゃったマーク2を見てくれてる。アンナはいろいろ世話をしてくれるし、ジュドーもずっとそばにいてくれてる。それにカミーユは……


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