Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>魔法使いと王子様

「ねぇ、」
「何? プル」
「ファはまだなの?」
「エルが出てってからまだそんなに経ってないわ。もう少し掛かるわね……どうしたの?」アンナが時計を見ながら言った。
「――カミーユの……こと?」 とジュドー。
 私はだまってうなづいた。
「熱はまだあるけど……大丈夫。もう寝付いちゃってるわ」とアンナ。
 ジュドーがカーテンをそっと開けた。くすっと笑ってカーテンを閉じ、
「カミーユってさ、不思議な人だよね」
「え?」首を傾げて、ルー。
「年上なのにさ、年下に思えちゃうっていうかさ、こう……守ってやりたくなっちゃうっていうのかな? ついさっきまでは、俺達の方が助けられてたのに」
「何かあったの?」とアンナ。
「カミーユがね、私達にずっと声を掛けてくれてたの」
 王子様を助けに行く、ってカミーユは言った。彼が危険なのが分かるって……

「前にファもそんなこと言ってたわね」とアンナ。「ずっと前だけど」
「自然だったな……疑問を抱く前に素直に従えた……」
「そうね」くすっと笑ってルーが続ける。「Ζまで素直だったわ」
「Ζがどうかしたの?」目をぱちくりさせて、ジュドー。
「Ζって、ジュドーのクセがついてるじゃない。始動の時にね、微妙に……ホラ、背中のスタビライザーがあるでしょ。あれがバウンドするのよ、いつもはね」
「それで普通なんじゃないの? ぴょーんて跳ねるんだろ?」
「あなたにとっては普通でも、私にとってはおかしいの! シミュレーションやったんだからぁ……」
「シミュレーションじゃ跳ねないの?」
「すーって行くわよ。すーってね。」
 もぅ……ジュドーとルーったらぁ。あれ? 跳ねるって?
「マーク2も跳ねたわよ。くるーって。それにΖΖだって上に跳ねるじゃない」
「マーク2もややこしいわよね。カミーユの前は誰か知らないけど、ま、カミーユとエマ中尉、それにエルだものね。ジュドーばかりなのってΖΖくらいよね」とアンナ。
「ふぅん、マーク2にもカミーユ乗ってたんだ」私、知らなかった。
「マーク2の経歴なんて、そのままアーガマ……ひいてはエゥーゴがどう戦ってきたかの歴史みたいなものよ」
 遠い目……思い出してるんだわ。マーク2の……カミーユの、アーガマでの思い出……

「へぇーっ。私そんなすごいMSに乗ってるんだ」
「エル! ――ファさんは?」とジュドー。
「もうすぐ来るわ。アンナさん、それ本当?」
「本当よ。話せばすごく長くなるけどね……」
 その時、なーんとなく外がにぎやかになった。と思うと、
「アンナさん……ただいま! ――あの、」
「おかえりなさい、ファ。カミーユなら、もう寝付いちゃったわ」
「すいません、」
「気にしないで。さ、入って――あらあら」
「艦長がやっと許可してくれてね。何、寝ちゃったの? カミーユの奴」
 トーレスにキースロン、アストナージ。いかにも安心した、って顔で……。
「ちょっと前にね」
「あいつ寝付くの早いからなー」
「手も早いけどな、意外に」
 三人はひとしきり笑い、ファはそっぽを向き、アンナもくすくすし出し、私とジュドーとルーは、訳も分からずにぽかんとしている。

「――そうそう。プルは調子どう、大丈夫?」とファ。
「まだ少し痛むけど……大丈夫」
 ファはほっとしたように微笑んだ。そして後ろ手にしていた大きな花束を出して、
「これ――私からのお見舞い」
「ありがとうファ――カミーユの分は?」
「ちゃんと……あるわよ、」真っ赤になって、ファ。
「ファが忘れる訳ないよ、プル」笑いながらトーレスが言う。「あっちのベッド?」
 私がうなづくのを見て、四人とアンナ、カーテンの向こうへ。


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