Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>魔法使いと王子様

「……ったく、」ため息まじりに、ファ。「アンナさん……私、悪いことしちゃったのかしら。せっかくカミーユを心配して来てくれたのに……」
「いいのよ、ファ。」アンナは微笑んだ。「トーレス達はイーノから連絡入った時もう半泣きだったし……。ファの元気な姿を見たくて、ちょっと『レクリエーション』しただけなのよ」
「そんなものかしら?」
「そうよ」
 ファ、肩をすくめて笑う。
 アンナもつられて笑う。
「ファさん……笑うとすごく可愛いじゃん? アンナさんもだけどさ」とジュドー。
「魔法使いのせいよ」
 言ってルーとエルも笑う。
 ジュドーも笑う。
 私もにこっとしてしまう。

 ホント、魔法使いのせいだわ。みんな『もう遅い』わよ。みんな宇宙が好きなように、宇宙みたいな心の彼が――好きなのよ。でも今のカミーユ……ジュドーに渡さなきゃいけない、何かを捜しに行ってしまって……捜すために心が『開いて』ばかりで……もし今、彼を『寒さ』が……悲しみが取り巻いたら――彼は、ひとりぼっちで――凍ってしまう……それはだめ。絶対だめ! だから、カミーユが私達みんなを助けてくれたように、今度は私達みんなで、カミーユを守ってあげなくちゃ……それにしても、魔法使いは――剣が持てなくなって……その剣を王子様に渡そうとして、塔の中へ捜しに行ったんだけど、カミーユは何を捜しに行ったんだろう?

「ふぅん、」ジュドーが言った。エルとルーはいつの間にか居なくなって、ジュドーはあの本を読んでいる。「この魔法使いって、王子様の腹違いの兄さんなんだって」
「じゃあ、魔法使いも王子様なの?」
「そうみたいだな」言って時計にちらっと目を走らせる。

 じゃあ魔法使いこともう一人の王子様は……彼のお姫様を捜しに行ったのかしら? なんて考えてると、ジュドーが立ちざま、本を私に返しながら言った。
「プル……」
「なぁに、ジュドー」
「女の子はさ、自分がお姫様になって……王子様と魔法使いが助けに来てくれるって夢を見るんだろうけどさ、」
 医務室のドアで振り返り、耳元まで来てささやく。
「男の子だってさ……騎士に――王子様になってさ、お姫様を助けに行ってチャンバラする――ってあこがれを……夢に見ることだってあるんだぞ」
「ジュドォ……」
「おやすみプル。カミーユに……よろしくな」

 ジュドーが医務室から出ていって、私はちらっとカミーユの寝顔を見た。私の方に首を傾げて寝ている彼の顔は、かすかに微笑んでいるかのようにも見えた。

 おやすみ、私の王子様。そして、おやすみ――みんなの魔法使いさん。


(8709.26)



あとがき

 み、身悶えしそうです〜。
 どうせ古いのが出てくるのであれば早めにしておこうかと、一番古いのを引っ張り出してきましたが……15年前の代物でございますです。

 という訳で、これが初めて書いた小話です。縁あって応募という形で書かせていただいたものなんですが……いきなりこの長さですか? みたいな。いやしかしっ! 青いっつーより幼いですわやっぱり。なのにこれが原点なばかりに、未だに拘り続けてますねぇ。つか、ほんとここから脱却できてないような気が(^^; →「桜の樹の下で」とかな……。

 そもそも86年の夏に「宇宙大作戦・新たなる航海」(スタートレックのファンノベル集)に収録されていた、シャーリー・S・メイユスキーの「精神探査機」という小説を読んで、自分でも書いてみたいと思ったのが、カミーユ絡みの文章を書くきっかけでした。この「精神探査機」という話が、探査機によって精神を破壊されたカークをどう復活させるかというそのまんまなものでしたんで……。これとは状況は異なる、けれどカミーユにも立ち直って欲しいのよ〜と思っていたのです。丁度ΖΖでは「泣き虫、セシリア」で名前だけ出てくるし、アニメ誌ではカミーユがホンコンに居るんじゃないかと情報が流れるし(企画書の内容ですね)、もう色んなことが同時にやってきてすっかり盛り上がってしまったのでした。敢えて余り手をいれていないのですが、その当時の勢いのようなものはこの文章の中にしかないな、と思いますので。文字通り「若さ故の何とやら」です。はい。


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