Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>眠らぬ夜の海で

「それに力があると言われたって、その使い方もまだ分からないんですよ」
 沈黙の気まずさを破ろうと、カミーユは自分から口を開いた。
「見るべきものを見れば、自ずと分かるさ。――力任せに復讐に走るのは、あまり勧めないがな」
 口調に反して穏やかでないその言葉にカミーユはクワトロの表情を伺うが、やはりサングラスに隠れて見えるものではなかった。
「今は、そんな気にはなれませんよ」
 カミーユはそう答えるのがやっとだった。母のカプセルが撃たれた後にハイザックに向かっていった時の突き上げるような衝動も、父の姿が見えなくなった後に押し寄せてきた激情も、吐き出すだけ吐き出してしまって今は枯れ果てたのか、失ったものの大きさを実感できないまま、自分の中にただ黒い穴がぽっかりと空いたように感じられて、何もする気にはなれなかった。
「結構だ」
 そう言ってクワトロが席を立ったので、カミーユもトレイを手にして立ち上がった。トレイを返して食堂を出ると、クワトロはカミーユに宛がわれた部屋の前まで送ってくれた。

「ありがとうございました」
 両親のことを散々に言いながらも、躾は厳しかったと見える。礼儀正しく頭を下げるカミーユの肩をぽんと叩いて、クワトロは静かに言い添えた。
「まずは体を休めて、それからゆっくり考えるといい――あまり時間はないかも知れんがな」
「なら、考えてる時間なんてないじゃないですか」
 カミーユが抗議の声を上げるのに、クワトロは穏やかな声音で答えた。
「君の邪魔をしない程度に時間は稼ぐさ」
 そのサングラス越しのクワトロの視線が、カミーユにはやはり暖かいものに思えた。だから自然と、表情も緩んだ。
「よろしくお願いします。では、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
 そう応えて踵を返す赤い制服が通路の角に消えるのを見送って、カミーユは室内に入った。時計を見て、ふと扉を開けて通路を見る。さっき見送ったばかりだ、彼の姿があるはずもない。しかし、こんな時間まで自分に付き合ってくれたのか、あんな忙しそうな人が。カミーユは通路の奥をもう一度見て、小声で囁いた。
「おやすみなさい」

 清潔なシーツに身を横たえる、アーガマ居住区の人工重力はコロニーのものに比べればいささか物足りないけれど、無重力帯の浮つく感じからすれば余程良い。お腹も満足したし、目蓋も重くなる。うとうととしながらも、カミーユの頭の中には色々な言葉が渦巻いて中々寝付けなかった。クワトロは一体何を言おうとしていたのだろう。彼のことだからいい加減な思いつきで話をしたとは思えない。親を殺された子供、力持たざる者の足掻き、力任せの復讐――それは一つながりの物語のようにも見えて、でもその真実は見えないでいた。まるで彼のサングラスが、その表情を隠してしまうように。

 作り物の夜には夢も眠らない。けれど朝になればきっと何かが見える。そんなことを思いながら、カミーユの意識は宇宙という底なしの海へと沈んでいった。


(0508.10)



あとがき

 劇場版が発表された後、「カミーユを良い子にする」と書かれる度に「TV版のカミーユだって前向きで素直な良い子なんだってば!」と反感を覚えていました。どうして分かってくれないのか。確かに一人で何でも抱え込んでしまうところはあるけれど、それでもあの状況の中に放り込まれて、最後まで戦い抜くだけの強さを持っていたのに。性根に善良なものを持っていなければ、簡単に時代の狂気に飲み込まれていただろうけどそんなことはなかったのに。寧ろ優しすぎて良い子すぎたから自滅しちゃったんじゃないのかと。何故あの結果だけを見て簡単に判断してしまうのか。劇場版が公開されても尚、苛立ちは自分の中に残りました。

 飛田さんの仰った「親は死んでも腹は減る」にしたって、TV版のカミーユも変わらないんです。実際、15年前に書いた「First Contact」という小説は、今回の「眠らぬ夜の海で」とパラレルの関係にあたりますが、やってることは基本的に同じです。もしよろしければ読み比べてみてやってください(凄く稚拙で恥ずかしいんですが(^^;)。「劇場版ではカミーユは書けない」って言ってたのに書いてしまいましたけど、でもまだまだカミーユはTV版だなぁ(と自覚してましたが、やはりそうだとも言われました)。大尉はなんとか劇場版かなぁ、と思ったりしますけど(こちらはOKいただけて良かったです)。あと何回見たら書けるかな。てゆかファ書きたい(i_i)

 そういえば劇場版1のチラシのコピーに「真実は見えるか」と書いてあって、それじゃ作品が違うよ! 実は何気に似てるけど。とか笑ってしまいましたとさ。つー訳で、新型の機動兵器を盗んで反地球連邦ゲリラに身を投じる17歳の青春を描いた「太陽の牙ダグラム」は名作です。―― Not even justice, I want to get truth. 真実は見えるか!? 大好き。

■■■ ご意見・ご感想をお待ちしております(^^)/ ■■■

mail

■ ひとこと感想 ■



back ◆ 3/3 ◆ Top機動戦士Ζガンダム