Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>赤い衝撃

「そりゃ悪いな。すぐ済むからさ――ホラ、実のところどうなんだ? 例の話」
「例のって?」
「ホンコン土産。」
 囁く声にカミーユが顔を上げると、トーレスのニヤニヤした顔がすぐ側にあった。
(この幸せ者……)
 カミーユは内心毒づいたが、作業中のモニタ表示に隠しファイルを見つけて、そちらに気を取られた。一般のユーザーでは閲覧できない、管理者権限で作成された私的ファイル。日付は相当古い。おそらく、マーク2開発チーム主任だったフランクリン・ビダン大尉――カミーユの父親――のものと思われた。そんなファイルは今までにもいくつも見つけたが、このファイルは隠し方が実に巧妙で、カミーユのような人間にとっては妙にそそられるものだった。

 大体、今カミーユが使っている管理者権限のユーザーにしても、パスワードなどは最初から知っていた訳ではない。フランクリンが自宅でも使っていたユーザーについてはその頃に盗み出していたが、さすがにマーク2本体のものはマーク2自体を手に入れてからパスワードを割り出したものだった。そうして使うようになったユーザーで見られるようになったファイルには、運用に関する貴重なデータも多く、実際役に立ってくれたが、それらはこのファイルのような隠され方はしていなかったのだ。

「おぃ、どうなんだよ。」
 ちっとも答えないカミーユをトーレスは追求したが、カミーユは相変わらずモニタに気を取られたままだった。
「おいってば。」
「うるさいな、」
 そう答えるカミーユが一瞬『あれ?』という顔をして、じぃ〜っとモニタを凝視した。何が映っているのだろうとトーレスもモニタを覗き込んだ。
「ぅわお。」
 そこに映っていたのは、この場にちっともそぐわない……なまめかしい女性の肢体だった。ふくらはぎから腰のあたりをなめるようにカメラが移動していく。
「『水蜜』なんて妙なタイトルでさ、ビデオ画像だったから何だろうと思ったらこれなんだから。」
 カミーユはファイルの作成者を思い出して苦々しげに言った。にしては、目はしっかりモニタに張り付いたままなのだから彼もただの男の子である。

「良い趣味してるなぁ。もうけもんだぜこりゃ。」
 トーレスはすっかり顔がふやけきっている。ところがカミーユはこの女性が誰であるか見当が付くと、乱暴に画像を閉じた。
「何すんだよ!」
 トーレスが抗議の声を上げる。カミーユは対照的に声のトーンが下がる。下がりついでに削除コマンドまで打ち込んで乱暴にリターンキーを押し下げた。
「こんなの要らないからね、さっさと消しておくよ。」
「勿体無い……」
 トーレスは肩を落とした。カミーユはため息をついた。
「ったく、親父ときたら……」
「え? 親父さんの趣味だったのあれ?」
 屈託のないトーレスの問いに、カミーユは冷め切った声で答えた。
「管理者権限で隠してあったんだ。仕事場で何やってんだか、」
「まぁ、良くある話じゃないの?」
「トーレスはあんな親父の息子をやったことがないから、そんなに気軽に言えるんだ」
 カミーユの機嫌は下降線を辿る一方で、肝心の用件はさっぱり進まない。トーレスはモニタに表示されているファイル一覧を覗き込んで、話をどう逸らしたものか糸口を見つけようとした。

「あれ? これは?」
 トーレスはあるファイルを指した。日付からするとこの機体がアーガマに来て以降のものになる。映っているものはアーガマ内のものであるに違いない。他のファイルが全てティターンズ時代に作成されたものであるだけに、このファイルの日付は異彩を放っていた。
「何だろう? 親父のファイルには違いないんだろうけど……『赤い衝撃』?」
 カミーユは首を傾げた。トーレスはいちかばちか、カミーユを促してみることにした。
「見てみようぜ。日付がどうも気になる」
「そうだな……」


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