Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>赤い衝撃

 カミーユはファイルを開こうとしたが、それはすぐには開いてくれなかった。手を変え品を変え試してみるが、どうも上手くいかない。こうも手こずらされては、余計に中身が気になって仕方がない。苛々しながら二人であぁでもない、こうでもないと言っていると、アストナージが声を掛けてきた。

「どうしたカミーユ? 何か問題でもあるのか?」
「ぃ、いえ、何でもありませんっ!」
 答えるカミーユの声は微妙に上ずっていた。それより、トーレスが首をつっこんだままだというのが何か怪しいとアストナージは思ったのだが、ラーディッシュに新たに配属になるメカニッククルーに呼ばれて、マーク2はカミーユに任せておけば大丈夫だろうとその場を離れた。

「おい、トーレス! ここに居たのか、」
 サエグサがモビルスーツデッキにやってきた。
「あ、やばっ」
「何がやばいだよ、遅いじゃないか!」
 トーレスを小突きながらサエグサが言い、トーレスは首をすくめた。
「ちょっと手こずっちまって……」
「何にだよ、」
「こいつが全然開いてくれないんだよ、」
 カミーユが苦々しげに言った。トーレスはフランクリンの『お宝画像』のことを話し、興味津々のサエグサまで巻き込んでファイルを開くべく格闘が続いた。ようやっとカミーユが合点したという風に顔を上げた。
「あ、やっと分かった。こうじゃないか?」
 ファイル開示に掛かる時間がもどかしい。ここまでしてやっと拝めるファイルには一体何が映っているのか。三人は知らず、息を呑んでいた。
 そして、モニタは一面の赤で埋めつくされた。


「な、何だこりゃ……」
 三人は頭を抱えた。そこに映っていたのは確かにふくらはぎには違いないが、なまめかしい女性とは程遠いガンダリウム合金製のモビルスーツのものだった。鮮烈な赤は当時クワトロ大尉の機体だった赤いリック・ディアスの塗装である。まるで女性の肢体をなめるが如く移動するカメラ、微に入り細に入り克明に映し出される無骨な機体の映像に、トーレスは軽い目眩を覚え、サエグサはうめいた。しかしそれをよそに、カミーユはしみじみと感じ入ったようにつぶやいた。

「良い趣味してるじゃないか、親父……」
 フランクリンがエマとカミーユと連れ立って、アレキサンドリアからマーク2三機で脱出してアーガマへ来てから、彼が赤いリック・ディアスを奪って逃走するまで、然程時間はなかったはずだ。その間に、こんな映像を撮っていたとすれば、彼のカメラマンとしての才能はなかなかのものらしい。見る人が見れば、この映像だけでリック・ディアスの性能を推し量ることなどたやすいと思われるような、見事な映像だったのだ。

 にしても、それを『良い趣味』と評するあたり、カミーユは所詮フランクリンの息子、カエルの子はカエルなのであった。トーレスはいよいよ頭痛を覚え、サエグサはトーレスに『じゃ、早く来いよ』とつぶやいて出ていった。

「確かにこれは『赤い衝撃』には違いない……」
 モニタの画像にすっかり心を奪われているカミーユに、トーレスはそれとなく声を掛けた。
「でさ、どうなんだホンコン土産は?」
「あ、あれ? 後で探しとくよ」
 そのカミーユの生返事に、トーレスは内心快哉を叫んだ。
「本当だな? 楽しみにしてるぜ。待ってろよサエグサさんっ!」
「あぁ、」
 真剣にモニタを見入っているカミーユに、トーレスは微かに不安を覚えたが、まぁいっか、と一息ついてプレデッキへと上がっていった。その後カミーユはといえば、彼にとっての『お宝画像』を探すことに終始してしまい、アストナージにさんざんどやされることになってしまった。彼にとってその画像は、まさに『赤い衝撃』だったのだ。

(0007.29)



あとがき

 久しぶりにΖ本編の時間軸のお話です。今回は#21「ゼータの鼓動」〜#23「ムーン・アタック」の間の頃のものになります。

 このお話は、何かのはずみで兄貴と「ホンコン土産の謎」の話になったときに、あのビデオの画像ファイルはマーク2の記憶装置にコピーされていて、それで誰にも見つからずに(?)宇宙まで持って上がれたのではないかという話から派生したものです。単なるヨタ話だったのに、わたしがどんどん進めていくので、兄貴が『そこまでオチを付けるなら書けば?』と言うので、書いてしまったものです。ちょーっと普段の話と毛色が違いますかねぇ? 如何なものでしたでしょうか。

 たまたま同時更新のネタが 「つっこめ!『GUNDAM EVOLVE II』」 ってことでマーク2つながりになりましたが、結構書いてみたい話はあるんですよねマーク2絡みも。……以前にΖの話も書いてないつーか、そもそも戦闘シーンなんてまるでないじゃんうちのカミーユ書庫……。「ガンダム」というと即MS、と直結する方多いようなんですけど、ここまでそういう色のない(けど乙女向けというのでもない)のって、やはり少数派なんだなぁと今更ながらに思ったりしております。今までずっとこの調子なので、きっとこれからもそのまんまだとは思うのですが〜。


■■■ ご意見・ご感想をお待ちしております(^^)/ ■■■

mail




back ◆ 3/3 ◆ Top機動戦士Ζガンダム