Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>The Last Rose in Summer

「じゃ母さんの論文の完成を祝って」
「貴方の帰国もね。そう、カミーユも留守をよく守ってくれるようになったわね、ありがとう」
 カミーユは照れくさそうにうつむいた。
「じゃ乾杯!」
 フランクリンが息子の肩をぽん、と叩いてグラスを傾けた。そうそう、と彼はほどきかけの荷物から包みを取り出した。
「お土産だよ、気に入るといいけどな。」
 フランクリンはカミーユには大きな箱、ヒルダには小箱を手渡した。
「何かしら? ……あら素敵。」
 ヒルダの開けた箱の中では、琥珀のペンダントが柔らかい光を放っていた。早速取り出して付けようとするのを、フランクリンが背中から手を貸している。
「良かった、似合うな」
「ありがとう」
 ごそごそと自分の箱を開けていたカミーユは、わぁと歓声をあげた。
「凄い、翼竜だ!」
「そうだよ。これをきちんと組み立てると翼竜になるのさ」
 大きな箱に入っていたのは翼竜の模型だった。最近とみに手先が器用になってきた息子には少々物足りないかもしれないが、そのあたりは『翼竜』というモチーフが救ってくれるだろう。
「父さんありがとう。出来たらみせたげるね」
「楽しみにしてるよ。でも今日はそろそろ寝なさい」
 確かに、子供はもう寝る時間だが、だからといってそう言われても面白くないのが子供というものである。むっとした息子の横顔をどうしようかと思っていたフランクリンは、荷物の中にあるものに目を止めた。
「そうだ、まだ残っていたんだっけ」
「何が?」
 これはヒルダ。
「カメラだよ。まだ空きがあるから、ちょっと撮ろうか」
 出張先で撮影して来たカメラを取り出して、フランクリンはファインダーを覗いて見せた。
「そうね……カミーユ、いらっしゃい」
 窓辺からヒルダが手招きをする。
「なぁに?」
「一緒に撮って貰いましょう。ほら」
 カメラを構えてうなづくフランクリンと、窓辺で微笑むヒルダとを交互に見て、カミーユは母に従う事にした。一緒に写真を撮るなんて随分していなかったのだ。
「よし、二人とも笑って」
 ヒルダはそっとカミーユの肩を抱くようにした。それが嬉しくて、カミーユは、母を見上げるようにして笑みを浮かべた。

 翌日。
 雨上がりの空は久しぶりに青く輝いていた。今日くらいは外で遊べるかな、とカミーユは思いながら、洗顔を終えてダイニングへ入っていった。
「おはよう父さん、母さん」
 フランクリンは私服でくつろぎながら新聞を読んでいる。今日は研究所へはゆっくり出かけるらしい。ヒルダも似たようなものだ。ま、昨日の今日で慌てなくてもいいもんな……と思うと、まず学校へ行かなくてはならない自分の身が恨めしくなるカミーユであった。
「おはよう、昨日の写真、プリントしておいたぞ。見てご覧」
 フランクリンが居間のテーブルを示した。その写真の母は本当に優しげな美しさに包まれていて、一緒に自分が写っているなんてちょっと照れくさいなと思う。
「うん、ありがと。母さんご飯」
「出来てるわよ、ミルク注ぎなさい」
「うん」
 カミーユは、トーストにかじりついた。

 カミーユが学校へ出かけてから、フランクリンはコーヒーを飲みながらヒルダに言った。
「昨晩の話だが……ミズサワ君にはまだ言わないでくれ」
「えぇ? ――分かってるわよ、彼女に直接関る話ではないのでしょ」
 フランクリンは思わず頭をかいた。
「だがな、間接的には関るだろう」
 ヒルダははぁ、と溜め息をついた。
「でも彼女もう就職が決まってしまったのよ。自分の意志で決めたものがね」
 カレンはこの夏に、ヒルダが研究生として在籍している大学院の修士過程を修了して、就職することになっていた。その口利きをしたのが、他ならぬヒルダだった。
「それで君に関る問題にもなるかもしれん。その件については私も善処するよ」
「……分かったわ」
 ヒルダは出かける用意をしに、自室へ向かった。


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