Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>The Last Rose in Summer

 ヒカルが行き、アキミもユキヒロもトーマスもいなくなった。ニホンの暦は夏を終えようとし、旅立ちの日が近いカレンはクラブに来なくなった。パヴェルがヒカルの代わりに一緒に飛んでくれるけど、やっぱりヒカルの方がうまかったなと思う。その前の日は満月だったから、昼の空の向こうにヒカルのいるサイド7があるのじゃないかと目を凝らしてしまう。そんな日々が過ぎて、また別れの日がやってきた。

「いろいろと、お世話になりました」
 カレンの栗色の髪がふわりと揺れるのを見るのもこれでしばらくないと思うと、それはそれで寂しいものなのだなとカミーユは知った。
「式をあげてからでもよかったのにな。――お幸せに。」
「落ち着いたら連絡をちょうだいね。お元気で。ほら、カミーユもさよならをいいなさい」
 ヒルダが肩をたたいて、ようやくカミーユは口を開いた。
「さよなら」
 その一言に、カレンも一言で答える。
「さよなら」
 じゃあ、と会釈してエレカへと踵を返したカレンだったが、いけない、と声をあげて小走りでエレカから戻ってきた。
「どうしたの?」
「私ったら大事なものを忘れてたわ。これを……」
 そういってカレンは一抱えある薔薇の花束を差し出した。
「時期も終わりなので、不揃いですけど」
「まぁ……ありがとう、カレン」
 ヒルダはそういって花束を受けとった。
「あなたに渡すものもあったんだわ。エレカまでいらっしゃい」
「僕に?」
「いいから。じゃ、お元気で」
 カレンは今度こそビダン家を辞すと、カミーユを連れてエレカに向かった。

「これよ、ヒカルから言われてたの」
 カレンが差し出したのは、ヒカルがクラブで使っていたスケッチブックだった。
「いろいろあって、自分から渡せなくてごめんねと言っといてって。呆れた、私にこの指輪くれた時と大違いよ。ほんとあの人、あなたには甘いんだから。」
「そうですか……」
 スケッチブックを抱え直しながらカミーユが言うと、カレンははぁ、と溜め息をついた。
「最後だから白状しておくわ。私、あなた嫌いよ」
「僕もです、カレンさん」
 間髪入れずに答えるカミーユに、カレンは吹き出した。
「分かって言ってるのかしらこの子は。……まぁいいわ。ヒカルを取られて悔しいのなら、宇宙へいらっしゃい。逃げも隠れもしないから。」
 目をぱちくりさせているカミーユは、やはり分かっていないらしい。
「いいわ、気にしないで。……待ってるわよ、カミーユ」
 言ってカレンの唇がカミーユの頬に触れた。甘い、薔薇の香りがした。それが、カレンの名残の薔薇になった。

 カレンのエレカが見えなくなる。しばらくそれを追いかけていたカミーユがふと立ち止まって見上げると、空は夜の帳を下ろし始めていた。ヒカルにもカレンにもユキヒロにも待っていると言われた宇宙がそこにある。何故そんな言葉が繰り返されるのか分からないけれど、でも今は、家に帰らなくちゃと言葉もなくつぶやいて、カミーユは遅い家路についた。


(9612.11)



あとがき

 「空の日」のヒカル君再登場。題名の元ネタは Nav Katze の同名のアルバム「The Last Rose in Summer」。各章の題名も収録曲からです。本来は収録曲それぞれの副題に「rose」が配されていまして、明るい夏というよりも、どこか物憂げな、去り行く夏への思いが込められているようなこのアルバムが好きで好きで、どうにか書きたいなぁと思っていたものですが、何だかよく分からないままだらだらと長いものになってしまいました(そしてアルバムとは似ても似つかない)。今のところこの書庫では最長です。途中、記念写真が本編と今ひとつ季節が合わないよーな気がしますが見逃してやってください(^^; ←紫外線対策で夏でも長袖って可能性はあるか。

 ヒカルとパヴェルの名前は、困った時のスタトレ頼み。スター・トレック(宇宙大作戦)のスールー(カトウ)とチェコフから名前をいただきました。カレンは特に意識してなかったんですが、後になって「カレン・ラッセル」と被ってるのに気付きました……すまぬ。

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