Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>WATER

「なんだ、ハロか。驚かすな……って」

 ハロがいるからには当然シンタとクムがくっついているはずだ。案の定、二人は戸口で立って中を伺っていた。カミーユは左の手でハロをつかまえると、二人に声を掛けて手招きした。
「何そんな所で突っ立ってるんだ? 入っといで、」

 先刻までは自分が突っ立っていたのだが。

「おかえり、カミーユ! 心配してたんだよ」
「無事でよかったぁ」
 二人は部屋へ駆け込んで、カミーユに抱きついた。カミーユは二人を交互に抱き寄せてやりながら、ようやく『ただいま』を言ったものだった。アーガマにたどり着いたのは戦闘の最中で、MSデッキのクルーや、プライト艦長くらいにしか、まだ顔を合わせていなかったのだ。ブライト艦長の所へ報告に行った後は、まっすぐ自室に来てしまったものだし……

「カミーユ」
 左手でハロがまた跳ねた。それを見てカミーユは笑みを浮かべた。
「そうだったな、お前にも言っとかないとね。ただいま、ハロ」
「ハロッ、オカエリ、カミーユ」
 ぴょんぴょん跳ねるハロと、抱きつく二人の顔を見ていると、気持ちが安らぐものだ。その点、フォン・ブラウン市を出てから行方不明だった二人が見付かって、今日までここに居てくれているという事にカミーユは感謝している。ただ、今は──

「ごめん。俺さ、ちょっと片付けてしまいたいことがあるから……」

 二人は寂しそうな顔色を浮かべた。そしてこくん、とうなづいて、シンタが口を出す。
「じゃあさ、また後で遊んでよ」
「ああ、約東するよ」微笑で答えてやる。
「約束だよ、絶対だよ」
 クムが念を押したがる気持ちは、よくわかる。
「俺が今までに嘘ついた事、あったか?」
 さすがにこの台詞は、自分でもよく言えたものだとは思うが。
「じゃあ、後でね」
 作り笑いで付け加えると、二人はハロを連れて部屋を出て行った。

「たぶんこうなると思ってたんだ」
 シンタがもっともらしく言う。
「帰ってきてから、まだすぐだもんね? 机の上、散らかってたもん」
 ハロを抱いたクムが頷くが、シンタはじーっとクムを見て言った。 「バカだなー。そういう意味じゃないんだよ」
「じゃあ、何を片付けんのさ?」
 追及した方も、された方も、立ち止まってしまった。
「よく分かんない……」
 クムの手を離れたハロが、二人の間で跳ねた。
「ワカンナイ、ワカンナイ」

 その頃、その『不可解少年』ことカミーユは、再び溜め息の海に溺れていた。子供はいいな、とカミーユは思う。無邪気でいられるんだから。とは言え、自分もまだまだ『子供』のつもリだったのだけれど──

「……ったく!」
 いい加減、自分でも厭になってきた。部屋も片付けてしまいたいが、もう一つの問題も早く片付けてしまいたいし……

 何度目かの溜め息の後で、ようやく、とリあえずシャワーでも浴びようという結論に達した時に、軽い……しかし、ためらった後味のあるノックが響いた。

「誰?」
 分かってはいるのだが……。
「私、」
 分かっているから……。
「入れよ、」
 ベッドに腰掛けたままで答えると、ドアの向こうからファが申し訳なさそうにこちらを覗いている。そしてカミーユの隣に腰掛けると、やっとの事で声を絞リ出した。


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