「さっきは、ありがとう」
「何をまた……当然の事をしたまでじゃないか」
「ウン……それとね、」
「それと?」
「ごめんね」
そう言うなリ、ファはうつむいた。
「何でファが謝るんだ?」
沈んでしまった顔を覗き込む。
「だって……」
うつむいたまま、ファは答えない。カミーユもそれ以上追及しようとしない。何故謝るのか、という事はこの際問題ではない。気分の方が問題だった。『二人ガ、今、ココニイルコト』──二人ともお互いに会いたかったのに、何故会える段になって、顔を合わせるのをためらってしまうのだろう?
……っと、訂正。この事態は一方的に俺が悪い。
「謝るなら俺の方だ。その……」
「いいのよ、カミーユ。無理しなくても」
そういう態度を、無理しているというんだ。
ファは困惑を微笑で隠した。そして思い付いたように口を開いた。
「そうカミーユ、今日何日だか分かってる?」
「え……? 何かあったか」
あきれた溜め息と揶揄をまじえた笑みを浮かべて、ファは言ってのけたものである。
「やっぱり忘れてる。あなたね、もう18になってるのよ」
「俺が?」
「カレンダーは嘘つかないわよ」
UC0087.11.14──そういや俺の誕生日って11月11日だったか。
「カミーユが地球に降りている最中だったの。だから……」
語尾はもう、聞き取れなかった。
「ファ……?」
かすかなすすり泣きが続く。何度もしゃくり上げて。
「いいのよ、カミーユ。もう何も言わないでいいの……でもね」
「でも?」
「……忘れないでね、約束よ」
えっ……
声は出なかった。と言うより、出せなかった。ファが出させてくれなかった。
「何もないからプレゼントのつもり、って言ったら、怒る?」
「いや、別に……」
……すっかりファのぺースにはまってしまった……。
そんな風に困惑しているカミーユをよそに、ファは笑ってみせた。
「冗談よ。ささやかながら用意してあるわ」
そう言ってファは、どこからか小さな包みを取り出した。
「あ。ありがとう」
やだな。赤くなってるんじゃないか、俺の顔。
「素直じゃない?」
悪い癖だわ、とファは思う。私の方こそ素直じゃなくて。
カミーユは多少むっとしながら、勿論、口調は抑えて──答える。
「それってさ、ほめられてるの? それとも──」
「もちろん、ほめてるのよ」
ファはくすくす笑いながら立つと、帰り際に戸口で振り返った。
「元気だしてね、カミーユ」
「あ……ああ」
声だけが室内に響いた。ファの姿は視界から去り、今ここにいるのはカミーユ一人。
カミーユはファがくれた包みを開けてみた。セサミクッキーは、心なしかほろ苦く感じられた。
「誕生日、か」
18年前、地球のニホン最大の都市トーキョーの近く、ニューシートでカミーユは生まれた。一年戦争の後で初めて宇宙へ上がり、旧サイド7、グリーン・ノア1に引越して、『隣の女の子』ファと出会って。初めて彼女の誕生日に呼ばれて──『特別に』チャイナドレスを着ていたファ──可愛かったよな、あの頃は。それが今では二人して戦争やっている始末。想像もつかない、つく訳がない。
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