Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>WATER

 生まれて育って、ひとは大人になってゆく。1年経ち、2年経ち、ひとは変わって、自分も変わって。それは別に『ある日突然』というものでもないだろうに、何故か特別な誕生日……

『ハッピーバースデイ、カミーユ!』
 少し丸い顔のファが微笑む。可愛いキスマークが、刺繍入リのハンカチに付いてしまった。
『何だって良いでしょ、』
 背中を向けてふくれる。中身は、さっくりとしたリーフパイ。
『プレゼントのつもり、って言ったら、怒る?』

 誕生日にはいつもファが居てくれたから……何だかんだ言っても、居てくれたから。
 でも、今年は違った。誕生日にファは居なかった。俺は、地球に降りていたから。

「地球、か……」

 現在アーガマは居住区を展開していて、人工重力が発生している。そのおかげで、水滴は幸うじて下方に落ちてくれている。カミーユは水滴をてのひらに受けながら、相変わらず思考の迷路から抜け出せないでいた。

  てのひらの冷たいぬくもり……
  氷でできた花片は手の内で涙に戻る──。

「地球にいる間に、俺は18になっていた……?」

 カミーユは今更気付いて息を飲んだ。14、13、12、そして11。……日付が合う。

「何て!」
 白い地平で……キリマンジャロでフォウが命を散らしたその日は、18回目の誕生日。地球で、ファはいなくて……

「俺は──」
 フォウに、その命を貰ってしまったことになる。

  てのひらの冷たいぬくもり……
  涙はいつか、うみへと戻る。
  戻ればいい、戻るべき場所ヘ──

 カミーユは茫然と水滴を見詰めていた。が、涙は止まってくれようとしない。

  てのひらの冷たいぬくもり……
  涙はいつか川になって
  その川を渡ったら、君に会いにゆけるのだろうか?

 『悲しまないで』と言われたところで泣き止めるものではないのだ。なら、どうしたらいい?
 いや、これは愚問だ。だってもう解答は出ている。
 忘れさえしなければいい。忘れなければ、それでいいはずだ。忘れないでいられたら。

『……忘れないでね、約束よ』

 そうさ、俺にファが居てくれるように、フォウにだって……。なら、その事を忘れないでいたらいい。ぬくもりを、忘れないでいたらいい。

  白い地平のdestination、今なら分かる。
  あるべき場所へ、戻るべき場所へ。
  今は涙に綴る手紙も、いつかはぬくもりとともに君のもとへ──。


(9011.11)



あとがき

 お誕生日話というか、#38「レコアの気配」時点のお話です。好きな話なんですよ〜って本編との接点はシャワーシーンだけやないかい、というものですが。問題の日付に関しては、現時点で流布してる年表と合わないかも知れませんが、そのあたりは目をつむってやってください。こちらも敢えて見ていません(^^;

 しかし、UC0083の誕生日話「炎の記憶」(実はそういう話でもあったり)とか、UC0102の誕生日話「遅れてきた誕生日」同様、単純におめでとう話にならんところが困りもの。視点移動が激しすぎて修正もおぼつかないんですが、これが若さかって感じで毎度ながらご容赦。


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