人類がその生活の範囲を広域化するにあたって、様々なコミュニケーションの手段を発達させてきたその延長線上に、ニュータイプの持つ能力があるのだとも言える。その意味においては、漠とした宇宙空間で人類が生きてゆくのに、できるだけ広範囲の情報を収集し、それを適切に処理した上で他者とコミュニケーションを確立するというのは、必要な能力ではあるのだろう。その結果として、それまでにないレベルで他人の心へと入り込んでゆく、あるいは、他人に自分の心を明け渡してしまうということが起こりうる。それは確かにある意味では素晴らしいことなのかも知れないが、戦士には不要な能力だ。必要なのは超常的な感覚であって、他人と理解しあうことではない。それをどうにかして押え込み、戦士として完全なものとすることは容易なことではなかった。
二人の最初の出会いは、戦場での必然的なものだった。しかし二度目の出会いは、ごくありふれた波止場での偶然のものだった。そして三度目の出会いは、二人が互いに望んだ結果のものだった。二人は必要以上に近付きすぎてしまい、その結果フォウは自分の身も省みずに、彼を宇宙へ逃がすべくティターンズを裏切るような行為に出てしまった。これでは戦士としては失格である。結局、フォウとサイコガンダムは海上に墜落し、ニューギニアの部隊が回収することになった。
波間を漂っていたフォウは、傷つきながらもどこか晴れ晴れとしていた。どこか満たされない思いからきていたあの表情の厳しさが面影もない、フォウは自分を満たすものを見つけてしまったのだ。これではもう戦士として使い物にならない、しかし生き延びたこの体は惜しい。ムラサメ博士は、フォウからホンコン・シティでのカミーユとの出会いの記憶を奪った上で、キリマンジャロでの再調整に臨んだのであった。
しかし、なおもフォウの記憶への執着が薄らいでいるとなれば、何らかの処置が必要になる。それでもフォウを戦場に赴かせるだけの動機づけは、どうしても必要なのだった。
「……手を打ってみます。今ならまだ、間に合うでしょう」
ナミカーの言葉に、モニターの中のムラサメ博士は黙ってうなづき、姿を消した。
フォウは、宇宙を知らない。
しかし、宇宙空間を再現させるシミュレータで感じられる浮遊感は、どこか懐かしさを覚えさせるものだった。
目を閉じて、ふわり、と思考を泳がせてみる。自分で作り出した闇は、いつも見るあの夢をよみがえらせた。
夢の向こうから、何かが寄せてくる。これは波だ、とフォウは呟く。その波に体を預けて、ゆらゆらと漂ってみる。その記憶が、フォウのどこかでこだまする。私はいつか、こうして波間に漂っていた。それが何故かはわからない。でも、それが心地良かったことを、私は覚えているのだ。
この波がどこから来るのか、それはフォウには分からない。波が来る方へ手を伸ばしてみても、何がつかめる訳でもない。この波は一体何なのか、何故自分の方へ寄せてくるのか。何を伝えるものなのか。何も知らない、何もわからない。でも、この波は、優しいものだとフォウは思う。自分をそっと包むように、呼びかけるように、懐かしさと温かさと明るさとを寄せてくる波。波が連れてくる夢の世界では、フォウはひとりではなかった。この腕をすり抜けてゆくものであっても、波と遊ぶことはできるのだから。
「今日のスケジュールを変更するわ。フォウ、いらっしゃい」
ナミカーが、フォウのささやかな遊びの邪魔をする。
フォウは、起床を告げるチャイムに目を覚ました。またいつもの白い日常が始まるのだ。窓の外は今日も雪、室内に居ればその冷たさを感じることもない白い花片が、視界を覆いつくしてゆく。
その雪を見遣りながら、フォウはどこかで何かが違うと思っていた。そうだ、今日は夢を見なかった――夢?何の夢?今日見なかった、というその感覚は、いつもは夢を見ていたはずだとフォウに告げていた。
窓に映る自分の顔がひどく白い。でも特に自分は変わっていないように見える。でも、きっとそう見えるだけ、私は何かが変わってしまった。でもそれがどういうことなのかわからない。消えた夢の行方を追うように目を閉じてみる。しかしそこには、暗い闇があるだけで、窓の外の世界と然程変わらない。もう一度目を開けてみる、窓から自分が自分を見詰めている。
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