Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説>one and only

■one and only : on that day

 花火が上がり始めた夏祭りの夜。待ち合わせ場所に指定された神社の鳥居を眺められる物陰で、シズノは彼が来るのを待っていた。遠目にも分かる彼の赤い髪が目に入り、シズノの鼓動が一瞬高鳴るが、傍らの人影を見て、すぐに沈んだ。
 やっぱり、カミナギさんと一緒だ。
 そんなことは、見るまでもなく分かっていたことだ。それでも、この目で確かめるまではと遅らせていた彼への言葉を告げようと、シズノは携帯を手に取った。

 鳥居では既にトミガイ達が待っていた。皆によぅ、と声を掛けたキョウは、待ち合わせをしているはずの人物を探すが、視界には入らない。
「なぁ、先輩まだ来てねぇの?」
「まだみてぇだなぁ」
 ウシオがやはり周囲を伺いつつそう答えてくれた。その時メールの着信音がして、キョウは携帯を取り出した。
『急用が出来たの。ごめんなさい』
 差出人はミサキ・シズノ。それだけの素っ気ないメールを見て、シズノ先輩らしいなとも思うけれど、キョウの胸にもちくりとした痛みが走る。何だ、オレやっぱり残念なんだ。そんな風に他人事のように考えてみて、とりあえずの返信を打ち返す。
『急用なら仕方ない、またな』
 それこそまた明日、いつも通りにゼーガでの偵察任務があるのだし。今スクランブルが掛かれば自分だって急用ということで呼び出される。シズノとはまたその時に会うのだしさ。そう頭の中で並べ立てて、キョウは携帯を畳んだ。
「どしたの、キョウちゃん」
「先輩、急用で来られないってさ」
 リョーコにそうキョウが答えると、集まっていた面々も口々に残念がった。
「シズノ先輩の浴衣、見たかったなぁ」
「見たかったよねー」
 リョーコとミズキがそう言い合っているのを聞けば、確かにそれは残念だとキョウも思う。けれど、急用なら仕方ない。忙しそうだしさ、先輩って。
 ──何でオレ、こんなに必死に諦めようとしてんだ? オレらしくもない。そう思ってキョウはもう一度周囲を伺うが、やはりシズノの姿は目に入らなかった。

 しゃあねぇな、と胸のうちで呟いて顔を上げる。ハヤセが神社に姿を見せてメンバーが揃ったことを確認すると、キョウ達は鳥居を後にして歩き始めた。

「いいのか、一緒に行かなくて」
 鳥居を見遣る境内で、ミナトを連れたシマにそう問われても、シズノには答える言葉もない。彼のことを思えばこそ、彼のそばには居られない。黙ったまま二人にも背を向けて、シズノはその場を去った。

 一人佇むシズノの足元で、いつもの猫が細く鳴いた。付き合ってくれるの、と猫を抱き上げて見上げた空には、いくつもの打ち上げ花火。いつしか滲んでよく見えないのに、目を離さずには居られない。それは、彼も見ているはずのものだから。そう思えば、今、二人は同じ時間を過ごしている。一緒には居られないけれど。
 ──どうしてこんなにも次々に思惑が浮かんでくるの。考えたって仕方ないことなのに。そう思ってシズノはふと周囲を伺うが、そこに彼の姿があるはずはなかった。


(0611.01)



あとがき

 こちらはキョウちゃんとカミナギの浴衣話「side-by-side」のシズノ先輩編ということになってます。シズノ編が欲しいですよね、とのお声を頂いて書いてみました。シズノ好きな皆さんに及第点をいただけるのなら良いのですが。一箇所、ずっと書きたかった台詞なのに、これを書いた時点で本編に先を越されたのがあるのが悔しい(^x^;

 「one and only」には、「唯一の、ただ一つの」という意味の他に、「(誰よりも)愛する人、本当にいとしい人」という意味があります。ということで、キョウとシズノがそれぞれにその意味を確かめているお話になってます。TVアニメ本編とドラマCDとでひとまず完結となっているゼーガペインですが、夏場に書いたにしてはあまり手直しをしなくても済んだかなーとほっとしてみたりとか。あーでもやっぱ幸せそうなシズノ先輩をもっと見たかったですよ。

 そしてシズノ先輩来てないのに「皆揃ったな」って酷いよキョウちゃん! という#10の夏祭り当日。見事なまでのシズノスルーを貫くキョウちゃんとはいえ、すっかり忘れてたってことは考えたくもないので、おまけ編でいささかのフォローをしてみたり……ってフォローになってないような気もしますが。

 更に浴衣シリーズ第3弾のミナト編「on cloud nine」にもシズノは出てます。今度こそフォローになったのか追い討ちを掛けたのか(^x^;

 #17では一緒に夏祭りって誘ってくれたのにー(i_i) と改めて思ってしまうところですが、シズノ先輩の浴衣話を、とのお声を掛けてくださった鈴蘭さんが、シズノ先輩も登場する「誰かの未来(ゆめ)」を書いてくださいました(^^) こちらもまた良いものですので、是非是非どうぞです。


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