Camille Laboratory : ZEGAPAIN Topゼーガペイン>創作小説>le parapluie rouge

 舞浜に、銀色の雨が降る。

 ミサキ・シズノは赤い雨傘を差して、雨に煙る街をビルの上から見下ろしていた。色とりどりの傘の花が、通りを行き交っている。その光景は、シズノに以前見た映画を思い出させた。雨のパリで見た、『シェルブールの雨傘』のオープニングだ。
 あの映画はハッピーエンドだったとシズノは記憶している。ならば今この場面から始まる物語は、どのような結末を迎えるのだろうか。傘を叩く雨音を聞きながら、シズノはふとそんなことを考えた。

 いつもなら晴れているはずの舞浜に雨が降っているのは、シズノが初めて舞浜サーバーに降りたために、システム環境が乱れているからだ。そのリスクを負ってでも、シズノが舞浜に降りたのには理由があった。抱えてしまったものの重さに自爆を選び、シズノの手でサルベージされ、この舞浜で目覚めを待つソゴル・キョウと、再び出会うために。

 シズノが舞浜に降りてすぐ、キョウはシズノをその目に捉えた。だが彼が口にした言葉に、シズノは耳を疑った。
『君、名前は?』
 愛おしい彼の声で、そんなことを聞かされるとは思いたくなかった。

 キョウと二人でパリに降りたあの日から、現実時間で1年近くが過ぎていた。キョウがセレブラントとして目覚めてからだと、2年余りということになる。
 それはあの『シェルブールの雨傘』で、ギイが兵役を過ごした時間と、ほぼ同じ。
 戦争で傷ついたギイが故郷に帰ってきたように、キョウもまた故郷である舞浜に戻ってきた。その心に深い傷を負って、シズノと過ごした日々の記憶をなくして。二人で見た現実世界の雨のことも、重ねた唇の熱さも、ミサキ・シズノという名前も、そして二人で濡れたあの日のパリの雨のことも、彼は全て忘れてしまったのだ。

 あの日の雨は、温かかった。この冷たい雨とは違って。
 パリの雨を思い出してそう感じてしまうのは、今一人で舞浜に居る自分の心の中にこそ、冷たい雨が降っているからなのだろうか。
『貴方は他の女の人を知ってきっと私を忘れるわ』
 何故か、あの映画のそんな場面をシズノは思い出した。
 それでも私は忘れない。後悔なんて、意味はないから。
 シズノは、赤い雨傘の柄を静かに握り締めた。そしてセレブアイコンを開くと、銀色の雨に煙る舞浜サーバーから姿を消した。





あとがき

 この『赤い雨傘』は、前バージョンのキョウとシズノが映画を見てデートする話を、というリクエストにお応えして同人誌(QL03)で書いてみたものですが、本題のはずの3章でのデート以前の、1章での舞浜サーバーの月面移動の話に関心をお寄せいただきました。リクエスト下さった方にはデートも好評で良かったのですが(^^) これらの過去話は当然公式設定はちゃんとあるはずなのですが現時点で未公開なもので、これはあくまでファンによる二次創作でしかありませんのでその旨はご承知置きください。

 リクエストを頂いて、真っ先に思い浮かんだのが『シェルブールの雨傘』でした。雨のパリでのラストシーンから書き始めたようなものでしたが、この場面がまるでゼーガの劇場版のようだ、などというご感想を頂戴した折には、それって自分も見たいですから! と。勿体無いばかりのお褒めをありがとうございました。しかしこの映画はゼーガにはまりすぎてて自分では恐いです。

 それでこの『赤い雨傘』のおまけ短編を、QL05『花柄の傘』にて拡大解釈して河能亨の話が出てきて過去編は続き物になってしまいました。『赤い雨傘』ラストの1pは本編#01でシズノが赤い雨傘を差している場面に直結しているので、この場面の続きが直接『花柄の傘』になるというものではありませんが。

 過去編の最新作では第一次オスカー攻略戦にまで至りまして、先の夏コミ(C74)にてQL07『空色の傘』として発行しました。その中でこの『赤い雨傘』に触れる部分もあり、QL03は既に頒布終了いたしましたので、今回こうしてupしてみた次第です。同人誌の方に興味を持たれた方は是非出版課をご覧くださいませ。


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