Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>海を見ていた午後

『そうですか……でも何故?』
『中断させるには惜しい記録だし……ファが書き続けていたのと同じ理由だろうな』
 艦長は苦笑した。
『俺、あんなの書いたことなくって……』
 頭をかきながらジュドーが言う。
『今時手書きだなんてね。カミーユって少し変わってるから』
『でも……良いひとだと思います。話ができないのが、ちょっと残念だけど』
 伏せた視線は、不思議とどこかカミーユに似ていた。


 アーガマはもうノルウェーについたかしら?
 コロニー落としのために、宇宙に戻るのは延びてしまったけれど、カミーユのことが今の私にとっては一番大切だから。
 みんながあんなに色々してくれて……嬉しかった。見ず知らずのルー達にまで、あぁさせるなんてね。彼という存在を改めて思い知らされたみたい。
 でも、今は──
 あら?
「何、どうしたの? カミーユ」
「海、見に行こうよ」
 海、ですって……?
「え、えぇ。行きましょ」

 突然喋ったと思ったら、それきりまた黙り込んで。
「ここからは海なんて見えないのよ、カミーユ」
 って言っても聴かないだろうし。──それに、カミーユには見えるのかも知れない。
 丘に立って、遠く彼方を見るカミーユの瞳が、私には海に見えた。
 そんな彼の視線が次第に上がり、彼の見ている『海』が見たくて視線を合わせた私に見えたのは、北の海と、それと同じ色をした青い空、そして空高く伸びる白い筋──
「ジュドー達のシャトル……?」
 でも、ノルウェーって……ここから見える訳、ないのに。
 ううん、見えるものは見える。それで良いのよね。
 どこまで見てるのかしら。成層圏を越えて、きっと──
 私達は、柔らかい草の上に腰を下ろした。

 午後の日がまぶしい。今は夏だっけ。
 とはいえ、グラスゴーはスコットランドの町。涼しい風が髪をゆらし、頬をなでてゆく。そんな風に冷えた手に、重なった彼の手があたたかい。
 海を見やれば、いつの間にか空とつながっている。
 思えば、こんな風に海を見たのって、初めて。
 海色の瞳の少年に、そっと微風のKissをあげたい、な……


(8804.01)



あとがき

 古いものから出してしまおうと、またしてもぞっとするような日付のものです。「魔法使いと王子様」を応募させていただいたご縁で、書かせていただいたものでした。もう、手を入れようかと見直すのも恥ずかしくてたまらんというシロモノですが(^^; 所期のものはほんと一人称でしか書けなかったというのが、更に。因みにファが指摘している『グラスゴーからダブリンの方を向いても海は見えない』というのは地図を見てみてください。題名英文はjokeですが、元ネタは松任谷由美。

 でもこれも「原点」の一つであるのは確かで、「そして約束の海へ」なんか、まんま引きずってますというのがよく分かるというものです。ダブリン編というかΖΖのカミーユを書きたくて書き始めたのだからまぁやむを得ないとは思いつつ、いつになったら落ちが付くのやらと。


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