Camille Laboratory Top機動戦士Ζガンダム>創作小説>涙の法則

「一人でも構わないって顔してるくせに、結構寂しがりやで……でも決してそれを認めようとはしなくてさ。意地っ張りで、いつもファと痴話喧嘩しててさ。『レクリエーション』なんて言ってからかってやってたんだけど」

 あの時は、「事件」の後で、酒盛りに誘って貰えなかったファが、何故かとカミーユに食って掛かっていたのだ。トーレス達にしてみれば、野郎ばかりの席に女の子一人を連れ込むのも何だし、ファを誘うのなら他の女の子にも声をかけたいと思ったものの、そんなことをしていたら艦長に見つかるしというような事情があったのだが。しかし艦長には結局見つかったのだから、誘っておけばよかったかも知れない、なんていうのはまさに後の祭りというものである。しかしそんな感慨は、第三者だから思えることであって、あの時のカミーユというのはまさに当事者扱いだったから、ファにとっつかまって苦り切った顔をしていたのだ。

『第一ファはあの時特訓中だっただろう?誘うも何もないじゃないか』
 それでもやましさは感じているとみえて、カミーユは目線をそらしてファに応えていた。それが気に入らなかったのだろう、ファの言葉尻に刺が生えだした。
『それはそうかも知れないわ。でもカミーユだって、Ζの整備、サボってたんでしょ?』
 確かにその通りだった。事実を指摘されれば立つ瀬がない。しかしカミーユは、一瞬言葉につまりながらもいつもの調子で反論を始めた。好きだねぇ、あいつも。

『あのねぇ。結果的にはそうなったかも知れないけど、俺は地球から戻ってきたばかりで』

 そうだ。ここでカミーユの声は微かに途切れたのだ。頭は呆けているのに、記憶のフィルムはやたら鮮明だ。

『……特別のオフを貰ってたんだし。まぁいいさ、始末書書かずに済んだと思えば』
 カミーユは何だかあっさりと話をまとめたがっているようだ、と見て取れた。それはファにも分かっていたのだろうけど、彼女にしてみれば振り上げた言葉の拳をどう下ろせばよいのか分からなくなってしまったという状況だ。だから、ファは上目遣いに悪戯っぽく笑ってみせたのだ。
『お咎めなしだったんでしょ?知ってるんだから』
 その様子に、カミーユは微かに鼻をこすって調子を合わせた。
『ファもしつこいな、』
『カミーユほどじゃないわよ』
 そして、まるで申し合わせたかのような笑い声。どうしてだろう……自然なように見えても、他にはあいつの笑い声なんてロクに覚えていない。だからそう、気が付けばそこに居て、気が付けば居なくなっていた、そういう奴だった。あの日も、あんなに突然――

「畜生、何だって今頃になって涙なんて出てくるんだよ!」
 あの時ですら出なかったのに、今あいつはこの地球に無事でいるのだろうに……。

「今更だからだよ、」
 何時からそこに居たのか、ジュドーが応えていた。
「涙で流せるくらいの気分になったからさ、本当に泣きたい時には――一番悲しい時には、涙なんて出ないのさ」

 ジュドーだよなぁ……と、トーレスはぼんやりとその言葉を聞いていた。気がつけばそこに居て、こんな事を……幻聴ってこういうものなのか?あいつの……カミーユの声が重なって、聞こえる。

 あの笑い声も聞こえるかな?そう思いながら、トーレスはゆっくりと目を閉じた。

(9712.03)



あとがき

 先月分の「Rain or Tears」と今回の「涙の法則」については、下書きの段階から物語の順序を入れ替えました。はじめ「涙の法則」を書こうとした際に、その下敷きになっている話(「アーガマ某重大事件」)を出していないのにこれだけ出してもなぁと思って、キャストと状況を変えて「Rain or Tears」として書き直したのです。だから、オチが同じなんですよ(苦笑)「涙の法則」なのに「Reason of Tears」というサブタイトルだったりするのはそのあたりを引きずってるものです。

 今回はちょい短めでしたが、連作「Teardrops」最終話の次回分は長めのものになりますので、またお読みいただけると幸いです。

この続きは→「そして約束の海へ」


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