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「他人のこと言ってる場合じゃないじゃないか。君たちのとこだって夫婦のくせに。」 「それは……」 ナナが言い返す言葉を探していると、カミーユはトレイを手に席を立った。 「そろそろ戻らないと、また何か言われそうだ」 「出社してる日くらい、ちゃんと研究室に居なくちゃな」 「それなりの用事があるんだから出社してるんだけどな……じゃ、またね」 「あぁ、またな。検査結果、家へ送ろうか？」 「いいよ、社内便で」 そう言って、カミーユは喫茶部を出て行った。 「ほーんと、相変わらずね、彼は」 「良くも悪くもってとこかな。例の誕生日にしたって、彼にはそれなりに意味のある日付らしくてね。こないだ話をした時にさ、ファにしてみればちょっと思うところ複雑なものがあるみたいで、『そういう所は何年経っても変わらない』って、ぽつんと言ったのがさ、ひっかかっては居るんだけど」 そう口にしてお茶を飲み干すテオを、ナナは呆然と見遣っていた。 「あなたって人も変わらないわよ、どうしてそんなにファと仲良しさんなのよ！」 「ナナがカミーユと仲良いのと同じだろ？」 「どーしてわたしがカミーユなんかと仲良しなのよ？ あーもう最低」 ４人が出会った学生の頃とまるで変わらないナナの反応に、テオは小声で笑った。 「お帰りなさい、主任さん」 研究室に戻ってきたカミーユを、その声が迎えた。 「ただいま。何かあった？」 「電話が６件、あとメールがこれだけ入ってます。今日中の回答要求があるものについては印つけてありますから、よろしくお願いします」 メモを受けとって、ざっと検分する。久しぶりの出社というのはこういう対応が溜まって大変だ。 「了解。そうそう、ナナが寄ったんだって？」 「ヒカワさんですよね。ホンコン土産いただきましたよ」 「……ホンコン土産？」 その言葉の響きにどきりとしたカミーユに、その心中を知らないだろう無垢な応答が返ってきた。 「ペニンシュラの紅茶とチョコレート。美味しいんですよ。主任さんも如何ですか？」 「あぁ……あぁ、紅茶とチョコかい。後で頂くよ」 「じゃ後でお出ししますね。……何だと思いました？」 あわててカミーユは手を振って答えた。 「何でもないって、さて仕事するかな」 さっき喫茶部でザッハトルテ食べてきたばかりなんだけどな、とカミーユは内心思いつつ、ナナに好みを読まれているのが、何やら嬉しいようなこそばゆいような気分だった。仕事を片付けて帰宅すると、ナナは自宅にまでお土産を持ってきてくれたらしい。その日３度目のチョコレートを口にしつつ、ここまでくると嫌味だとは思いながら、ナナに貰った新聞をファにも読ませて思い出話をした。遅れてきた誕生日は、甘くもどこかほろ苦い味がした。
（0112.18）
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あとがき 研究室サイト１周年記念の主任さんのお話です。誕生日に書こうと思いつつ書けなかったお話と、研究室向けのお話として考えていたのとまとめた格好になったので、短い話のつもりがそれなりの分量になってしまいました。つーても全然短編ですが。 ネタその１の誕生日について。「本当は11月５日、でも手違いで11日」というのは実話だったりします。アニメディア85年７月号の「アニメキャラリサーチ」に掲載されたカミーユのプロフィールでは「11月11日」になっているので、世間一般ではこの日とされているんですが、この原稿を書いたご本人（当時サンライズ企画室にいらした方です）にこの記事をお見せしたら、「富野監督と同じ日にしたはずだから11月５日のはず。ゾロ目は避けたはずだし」というお言葉が返ってきたのです。どうやら編集部による誤植のようなのです。という訳で、『じゃあどうなのよ？』を自分なりにまとめるとこんな感じなのかなぁと。で、ファがカミーユの誕生日について「ちょっと思うところ複雑」というのは、カミーユのUC0087の誕生日話「WATER」を引きずってる設定です。 ネタその２、『主任さん』のお話。「Silent Bells」で登場する、カミーユの大学の同級生テオとナナも登場していますのでちょっとその間のお話を。テオは医学部へ転部して、その後医者にはなるんですが色々あってアナハイムの医療部へ転職してきます。ナナはフリーのジャーナリストになって、少し前にテオとようやく結婚したらしいという頃です。カミーユとファが結婚したらしいのはそれよりは前みたいなんですがちゃんと教えてくれません。いいじゃないですか主任さん、減るもんじゃないんですから。UC0102という年代設定も結構適当なんですが、主任さん三十路なんですね、この設定だと。えーとあと、テオとカミーユがザッハトルテが好きだという話も色々ネタはあるんですが、いつ書けるんでしょーか。今回それまで入れてると長いなと思って削りました。この人達出てくると必ず茶飲み話だというのも何ですが。あと雑用係の出番は必要最小限のつもりですが〜まさかあぁいうオチになるとは書いている本人も思わず(^^; The Peninsula の紅茶とチョコとゆーのは定番ではあるんですけど。 有難くも頂くご感想を拝見していると、ファがお好きだという方が複数おみえのようで、カミーユとファを好きでつい書いてしまうわたしは嬉しいものなのですが、今回うまく出番を作れずに残念でした。せめて帰宅後の話くらい、と思ったのですが、ちょっと冗長になってしまってうまくまとめられそうにありませんでした。……つーか帰宅後の話に全編書き換えてしまえばちゃんとファが出るぞ？ と思いついたんですが、それやってると１周年に間に合わないので、とりあえずβ版ということで公開です。 〜という訳で帰宅後のファ登場編、ようやく書けました。「eyes on you」です。
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