アルジェントソーマ事典
基本はあくまでアニメ本編。適宜CDドラマ・小説版・漫画版にも触れていますが、何分個人的な解釈なので、そのあたりはご注意のほど。なお、当時のアニメ誌・公式サイト等は未見のため、同じような記述があれば偶然の一致です。
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【ら】
■ラナ・イネス(Lana Inness)
フューネラルのコマンダー。国連軍・空軍出身の少佐。でもPhase:14の会議出席者リストでは「Major of US Army」になってるなぁ……何故だ? 国連軍の略称はこの回でも「UNF」なんだけど。まぁいいや。
女性の少佐でフューネラルの全権を任されているのは有能であるが故。彼女自身が銃を手にしたのは一度きりだが、司令官という立場にあって、それこそ議会の場においても毅然として事態に対処する勇敢さを持つ。しかし軍という、この時代にあっても男性優位の社会において、「女」である現実に何度となく苦い思いをしているらしい。そんな彼女には家庭より軍務を選び、そして娘を事故で無くしているという過去がある。しかしハティに出会い、忘れていた母性を取り戻す彼女は、地球という我が家を守るための戦いに立ち向かう。そしてその戦いの中、フランクとハティを見守る彼女は、エイリアンを人間のように扱うようになり、エイリアンの心について発言するが、「ロマンチックな幻想」だと侮蔑されてしまう。
しかし結局エイリアンは戦う相手ではないと判り、彼女は上院議員として新たな戦いに臨む事に。6年後もハティとの関係は同居ではないにせよ続いていたようで、「最後のプレゼント」を旅立つハティに贈る。ギネビアの墓前でハティと再会した時掛かってきた電話で「決まった」ことってアレだよなー。凄い政治手腕だ。さすがだ。
紗ゆりさんの声も非常にはまっていて、格好良い美人っぷりに拍車を掛けていてとにかく素敵だ。Phase:13でイネスを守り負傷したマイケルに、「戦友(とも)よ、よく頑張ってくれた」と告げるのが超絶に格好良いんだよなぁ。でも、Phase:22やPhase:24でフランク/ユーリに呼びかける声は、良い意味での女性らしさが出ていて、これも良い。ハリエット(敢えてこちらの名)に対する猫なで声(敢えてこう書いておく)が、スーは気に入らなかったようではあるんだが、その声には確かな愛情が加わっていく。
女性司令官と男性副官というのは「スタートレック・ヴォイジャー」のジェインウェイとチャコティという例もあるが(あれは艦長と副長だけど)、イネスとマイケルもその関係といい、例え話の洒落っ気といい、海外ドラマを思わせる格好良さであった。ってさ、髪黒く染めて耳尖らせたら、ヴァルカンに潜入しても違和感ないって気が。あ、でもユーモアのセンスはあるよな。本編の例え話でもそうだけど、CDドラマ第1話によれば大リーグ好きみたいなんで、DS9のシスコ司令官と気が合いそうだ。今字面見たら、「キラ・ネリス」(DS9副司令官)と微妙に似てるような気も。
■リウ・ソーマ/タクト・カネシロ(Ryu Soma / Takt Kaneshiro)
死者の国から生還した片翼の堕天使にして、復讐に燃える異形の妖精。そして身も心もアンバランスなまま、孤独に生きる錬金術師。……って、大して間違えてはいないと思っていたりするんだが。全部映像に出てきてますもん。独断専行、慇懃無礼、傍若無人で、笑っているのが一番恐い紙一重。タクト自身相当思い込みが激しくて結構イイ性格をしているんで、そこをちょっと復讐の炎で炙ったらリウになってしまったというだけのことなんだろう。一つのことに集中すると途端に周りが見えなくなるってのは、研究者の道を選べばそれなりに楽しい人生送れたんじゃないかとも思うが(そりゃ世の研究者に失礼とちゃうか)、それが彼の望む幸せなのかどうかは分からん。どうにも女の敵っぽいところもあって困る。でも悪い男だからこそ惹かれるんだよなぁ。困った。 ←やっとれ。
ユニバーサル大学の学生だったタクトが、恋人のマキの誕生日に彼女を追い求め奔走して行き着いたモルグでの事故により、彼の人生は一気に地獄へと転落することになる。タクトは2040年生まれで、物語開始時点の2059年で19歳。因みにその前年の2058年に第二次遭遇戦勃発、フューネラル設立という設定らしい。小説版だと、大学でマキと過ごした2年間といった記述があるんだが、18歳で入学した学部2年でアレというのもちょっと凄いと思うんで、マキと出会ってから2年なのかなとも思うが、ま、小説版だから別の話だし。ともあれ、いつかは知らんがタクトは宇宙工学科へ入学したものの、エイリアンによって宇宙開発が凍結されて、失意のうちに金属工学科へという流れに、先の2058年というのはそれなりに意味を持つんじゃないかとも思える。
ただPhase:02でマイケルが見てる報告書で、「Master of metallurgical engineering. University in Colorado.」と出てきてるんだが、これは「Universal University in Colorado」の間違いで金属工学科の修士課程ってことか? イネスが見てる方の報告書だとユニバーサル大学の名前しか出てこないみたいだし。修士なら納得いくなー。尤も2059年のユニバーサル大学なら学部レベルだと言われればおしまいだが。マキの回想シーンはやたらとある割には、大学以前に何をしてたのか、その過去は一切謎だったりするんだこの人。
仕組まれた事故により、文字通り死体置き場と化したモルグからただ一人生還し、身も心も傷つき果てて、マキを失った復讐のために悪魔に魂を売り渡す。謎の男Mr.Xより「元アラスカ地区第21辺境方面軍・成層圏迎撃機のテストパイロット、リウ・ソーマ少尉」の名を得て、仇敵であるエイリアンの再生体・フランクの居るフューネラルへと赴き、ザルク5のパイロットとなる。宇宙への夢も、愛しいマキも、そしてマキに優しくしたいと思った自分自身さえもエイリアンによって失われたと思いこみ、リウはその憎しみの全てをフランクにぶつけてゆく。しかしフランクの傍らに居る少女ハティにマキの面影を見てしまうリウは、憎いフランクを殺したくても殺せずに、それどころかハティのためにとフランクを助けてしまう自らの行為に、その傷ついた心を更に引き裂いていくことになる。
Phase:06で逃げ出したハティに対し、フランクとハティ、そして自分も含めて、「俺達が居られるのはあそこ(フューネラル)しかない」と説く。その後も、エイリアンに愛する者を殺されたことをハティに思い出させるような言い方を重ねるリウは、自分と同じ立場であるのだとして、ハティを自分の方へ引き込もうとするかのようにも見える。もう二度と取り返せない過去の代わりに。
リウが何度となく見るマキの夢は、最初はマキを思うばかりの追憶だったのに、途中から彼が知らない、有り得ないマキの顔が出てくるようになる。それは、彼の中でマキが遠くなっていくが故のことなのだが、自分を追い詰める方へとマキを変えていってしまうリウの心の傷の深さが痛ましい。そしてハティをマキと重ねてゆき、自分からマキもハティも奪うものとして、自らの内面にあるもう一つの思惑から目を背けるように、意図的にフランクに憎悪の目を向けるようになる。
しかし「傷だらけの化け物」であるフランクに対する憎しみは、いわば自己嫌悪の裏返し。だからこそ、「あいつも俺と同じ、自分の名前を忘れた、同じ、哀れな人間だったんだ」と気付き、そして心を閉ざしたままのフランクに「同じだったんだな……だから俺はお前を憎み、そして愛した」と真実を見る。そのことを気付かせてくれたハティを抱きしめるリウ。そして彼は、三度目のフランクの覚醒を目にすることになる。
金属工学の素養から、エイリアンの表層金属の構造変換に着目し、フランクの自己修復や、Phase:10でのタイプG4の耐衝撃性自己進化合金についての示唆を口にする。マイケルからは「こういう人材は貴重だ」と言われるが、ギネビアが過去について問い質すようなことを言うのにはさすがに返せる言葉もなく、マイケルからの無線に救われる。
しかしそんなギネビアと、「まだ死ねない」という言葉が通い合う。ギネビアが「生きることを否定された人間」なら、リウ・ソーマの名を得た彼は、その名の通り「死ぬことを否定された人間」とも言えるのかも知れない。モルグの事故に二度立ち会いながら墓所からの生還を果たし、自機を撃墜されながらも死ぬことはなかったのだ。彼が生き延びるのはひとえに復讐のため、しかしリウ自身の言葉通り、彼は自らの宿命すら書き換える。
フランクの飛翔後、モルグでの事件を告発したために政治犯として収監される。事実上の政変による恩赦で釈放されるが、6年も収監されるってのは一体何をしでかしたんだこの男は。天窓のある独房でノグチ博士の著書を読みながら、彼は6年間何を考えていたのだろうか。言っちゃならんことを言ってしまったが為の罪、しかしその罪が自らを救うことになる。
釈放された後、ユリシーズ号へ乗員を運ぶシャトルを見に行き、そこでバスに乗るハティを見かけてしまい、唇を噛みしめる。時の止まった部屋へ戻り、マキに貰った室内プラネタリウムをあの日のように灯し、天井を見上げる。ノグチ博士の言葉に彼は耳を傾け、受け取れずにいたマキの最期の言葉を6年経って目にして涙する。マキに冷たい言葉を投げつけたまま、優しくしてやれないまま死なせてしまった。その想いは6年間彼を苛んでいたのに、マキの最期の言葉は、彼の傷ついた心をそっと抱きしめる。死んだ人間というのは実は一番強い存在なので、「さよなら」と口にできてようやく、彼は死者の国の束縛から解放されたのだろう。それは、愛するが故に大事な人を傷つけ、その自分への憎しみに心を閉ざす、そんな「最低な男」への自己嫌悪からの解放でもあったのだが。言葉は、溝を埋めてくれるのだと。
親友リックの行けなかった遥かな宇宙へ行くための船、ユリシーズ号が彼を待つ。地獄発刑務所経由天国行きってのも凄い人生だ。かつてこの船を守るためにリックが駆った成層圏迎撃機でユリシーズ号へ向かうその胸中に去来したものは何か。そして彼を出迎えたハティにようやく見せられた微笑が実に良い。6年間刑務所に居た人間が第一航法士ってのも凄いが、何せ帰還のあてのない航海なんで、こういう人事もアリなんだろうか(つか、「スタートレック・ヴォイジャー」のパリスそのまんまやんか(^^;)――ってさ、Phase:25をDVDで見てたら、刑務所での点呼前、寝転がって顔に被せてる青い本の背表紙に「.ce navigation manual new edition」なんて書いてあるじゃないですか! 何だやっぱりそういうことだったのか。ちっ、小憎らしいぜ全く。――しかしま、「彼」に会うための旅路の水先案内人としては、リウ以上の適任者が居ないのは確か。リウが居れば、彼に会えるまでユリシーズ号は沈まない気がするし。ハティに正面から向き合って、共に彼に会いに行く旅路。語られない物語に終わりはなく、その航海は永遠に続く。
タクトも猫系の美人だが、リウはタクトの面影を残しながらタクトより甘い印象のある右側の顔(赤い瞳)と、重傷を負った左目は周囲を含めて移植でもされたのか、頬にはざくりと傷を残し、まるで形相の変わってしまった左側の顔(蒼い瞳)との左右非対称っぷりが凄い。こんなアンバランスな人なのにえらい美人で、村瀬リウには溜息ばかりで困る。左側のトサカっつーたらいいのか、ピンと立ったメッシュの髪が、右側から見るとまるで羽根のように見えるデザインも秀逸。右と左で顔が違うというのは、二面性を描くには非常に都合の良いデザインで、右と左のどちらが映っているかで内面が丸見えなのが良い。タクト、リウ右、リウ左と微妙に人格が違うので、これを書き分けた脚本と描き分けた作画と演じ分けた保志総一朗とまとめあげたコンテと演出は偉い。Phase:20で切れた後は更に微妙に違ってるのが余計に萌え。Phase:24ラストでイネスに「タクト君!」と呼びかけられながら、リウ左にきっちり戻るのも萌え。西田リウの切れっぷりも良かったよなぁ。Phase:25では執拗に右目しか映さずに、ハティの前でやっと正面からの顔が映るのが良い。でもさー、まずその伸ばしっぱの髪切らんかねあんたとか言いたいが。
全身に残る傷痕は心の傷をそのまま映しているようで痛々しい限りだが、あの重傷からどのくらいの期間で回復したんだろうかとか(Phase:06の時点でPhase:02から4ヵ月後らしいんだが)、運動機能に影響は出なかったのかとか、学生上がりのくせに軍で死線を越えてきた選り抜きのダン達に引けを取らないその技量ってのは何なんだとか、そういうことを聞いてはいけない(^^; Mr.Xが何かしたんじゃ、という線も考えられなくはないが、宇宙工学科に在籍し、試験で軌道を一周しただけとはいえ航宙経験があるだけあって、元々素養があったということなんだろう。それに、復讐という憎悪のエネルギーが彼に力を与えているのには間違いはないのだし。この辺、小説版での描かれ方も結構好きだ。
ところで「カネシロ」というのは、2000年制作の作品ともなれば、いかにもミーハーなネーミングに思えてしまうが、ひっくり返せば「シロカネ」となり、「白金」ならプラチナではあるが、ここは「白銀」ということで、「銀」が隠してあったと思いたい。とにかくこの人に関しては、もうどうしようもない勢いで萌えだ(見りゃ分かるって)。
■リック・シュタイナー(Rick Steiner)
ユニバーサル大学宇宙工学科41期生でタクトの同級生であり、航宙試験でペアを組んでいた相棒。Phase:01でタクトが大学に来た場面で、軍の養成校に連れて行かれたと名前が出ている。その後、Phase:04でマキをエアカートに誘うタクトの台詞にも出てきているんだが、正直Phase:17でアラスカ地区第21辺境方面軍・成層圏迎撃部隊の少尉として出てくるまで覚えてなかったってば(^^;
発電衛星イカロスに取り付いたエイリアン。成層圏迎撃機で発進するもエイリアンの攻撃を受け損傷し、フューネラルに救助を求めた彼は、フューネラル本部でリウとハティに出会う。「似ている」とリウに迫ってみせて、ふっとハティを向いて「マキちゃん」と、その顔を覗き込む一連のシーンは、お約束だが楽しい。三木眞一郎のこういう芝居もイイよなー。
女好きでノリの軽い、でも実にイイ男。マキに惚れてしまい、タクトには黙っていると請け負ったはずのタクトの浮気をマキにバラしてしまう。「半ば無理矢理手を出した」なんていうからもっと凄いことかと焦ったが(^^; ん、でもこれで「嘘つき」の話が繋がるからな。そんな話をリウに打ち明けて、何故かと問うリウに理由を告げないまま、タクトとリックの夢であったユリシーズ号を守るために、エイリアンと相撃ちになり、星空に散る。その光は、確実にリウの心を貫いた。
その後Phase:19でリウの見る夢の中、マキが指輪を受け取れないと言ったその傍らに来て、微笑むマキの肩を抱いて去っていったのがこのリック。どーゆー夢を見とるんじゃお前は! と言いたいが、それはリウ自身が一番問いたいことかも知れん。
■リミッター
ザルクとトートに共通する、エイリアンモーター用のリミッター。リミッター自体はあって当然とも言える装置だが、何で解除装置がついているのかというと、それは格好良いからなんだろう、多分(^^; これを解除するとエイリアンモーターの出力が上がるが、それはエイリアンモーターの本性をさらけ出すことに繋がり、パイロットにとっては命取りとなりかねない。
作中で最初に解除したのはPhase:12のダン、次いでPhase:13ではザルクの全員が解除したが、皆とりあえず無事。Phase:15とPhase:23ではトートのパイロットが解除して、パイロット自滅とエイリアン化というのは敵役の宿命か。Phase:23に関してはザルク3のエイリアン化を経験したギネビアが、ザルク2でトートのコックピットをもぎ取っているんだが。
【わ】
■「私も貴方のことをもっと知りたい」
フランクの覚醒にあたり、マキが送り込んだプログラムに記されていた言葉。Phase:16での再覚醒の際、かつてマキが居たブースに居たハティが、この言葉を読み上げている。そして、フランクの手の上で「私も貴方のことをもっと知りたい」と繰り返す。この時、スーのラジオが受信したフランクの言葉も、どうもこのフレーズのようである。
プログラムの存在を知ったリウは、この言葉を求め、フランクにその問いを投げつける。そして三度目の覚醒を果たしたフランクは、この言葉をリウに伝える。それはリウが求めた、マキが残した言葉であると同時に、マキがタクトに伝えたかった言葉でもあったのだろう。かつてタクトの言った、「知りたいんだ、マキのこと」に対する本来の返答として。←Phase:16では実際には『……バカ』なんですがねー(^^;
6年後、発進を待つユリシーズ号で、釈放されたリウが行方不明になったと知らされたハティ。彼と彼に会えると思っていたハティは、窓から地球を眺めながら、「私も貴方のことをもっと知りたい」と呟き、涙を散らすのが美しい。
マキの、そしてリウ/タクトの師であるノグチ博士の言葉を借りれば、「知りたいと強く願う」ことこそが進歩へと繋がる。その意味においても、この作品を見事に貫き、輝かせている言葉ではあるのだが、「貴方」が指している人物がフランクとリウだというあたり、それは実は視聴者の思惑でもあったりして。いや一番知りたいのはMr.Xだけどなー。あの人謎過ぎるよ……。
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